95 仮想世界に人を貸そう
「パーティーメンバーで力を合わせて何とか第五層まで来ることが出来ました。でも、みんなここで諦めてしまいました。先へ進むことを主張したのは私だけで・・・。結局、パーティーは解散。それでも私は一人で先を目指しました。」
悲しそうな顔をして状況を説明するスコヴィル。
「なんでそんな無茶を・・・。一人で進むなんて自殺行為だ!」
「それをアフタさんが言うんですか?」
ん? 彼女の指摘にふと自分の状況を考える。そう言えばそうだ。コイツは一本取られた。そんな様子を見てなのか、彼女は
再び笑い出す。
「アフタさんは本当に面白い人ですね。」
「そんなことを言われたのは初めてのような気が・・・。」
いつも人の邪魔にならないように、あまり関わらないようにしていたからなぁ。
「第五層で魔物と何度か戦っているうちに、寒さで体力が続かなくなって、最終的に動けなくなってしまったんです。あの時はもう駄目だと・・・。最後に考えたことは元の世界のことばかりでした。」
「元の世界?」
「アフタさんなら分かりますよね。」
この流れ、つまり彼女も転生者?
「スコヴィルさんは転生者なんですか?」
「いいえ、違います。」
あ、違うんだ。つまりどういうこと?
「本当の私は元の世界にいます。今ここにあるのは意識と仮の身体だけ。アフタさんは違うんですか?」
えぇぇぇぇ?!
なんだ、色々と僕が想像していた状況設定と相違があるぞ。意識だけ、つまり・・・。
僕のファンタジー的な知識を動員して状況設定を整理し直す。
「ピコーン。」
僕はいつのも閃きの力を繰り出す。
「?」
その様子を彼女は不思議そうな顔で見ている。しまった、人がいるのを忘れていた、恥ずかしい。
とにかく仮説を立てよう。一番可能性の高い事例、仮想世界の未帰還者。ラノベに良くある設定だ。その仮説を今の状況と照らし合わせて考えてみよう。・・・うん、色々と辻褄が合うな、畜生!
「スコヴィルさんは未帰還者なんですか?」
僕は質問の前提を変えてみた。
「はい。」
ビンゴォォォォ!!!
「もしかしてこの世界の冒険者って、未帰還者ばっかりとか?」
「いいえ、私の知っている限りそんなに多くはありません。」
「知っている限りって言うことは、他に誰がいるのか知っているんですか?」
「ブレアさんとサドンさんの二人です。」
サドンは特に違和感は無い。たぶん彼がもたらすであろう情報はその関係のことなんだろう。しかし剣聖ブレアまで未帰還者だったとは。
「やっぱりサドンさんの言った通り、アフタさんは他のプレイヤーとは何だか違うみたいですね。」
いったいサドンと何を話したんだろう。僕が他とは違うって、いったい何が? いや、もしかして。
「もしかしてスコヴィルさんは元の世界の記憶はきちんと残っているんですか?」
「はい、特に消えている記憶は無いと思います。消えていること自体を忘れていなければ。家族のことも友達のこともきちんと覚えています。」
「僕にはその辺りの記憶がありません。まあ、友達の記憶は・・・。」
そもそもいなかったのかもしれないけど。
「アフタさん、お願いがあります。」
「はい?」
「私とパーティーを組んでください。足手まといにならないように頑張りますから。」
「いや、それは考え直した方が・・・。僕、絶望的に弱いですよ?」
「絶望的に弱い人が第五層に来られるはずはありません!」
それが何かの間違いで来ちゃったんだよ!
「ここまで来たのは僕自身の力じゃ無くて、色々と穴を付いたり、ジャンクの力を借りたりで。僕自身は激弱なんですよ。」
「それがアフタさんのユニークスキルなんですか?」
「ユニークスキル?」
「帰還不可能になったプレイヤーのみが持っている、人によって異なる強力な特殊スキルです。」
「たぶん僕のは違うと思う。元の世界の知識を使っただけだし。」
「えっともしかしてアフタさん、地上でスキル鑑定してもらわなかったんですか?」
「え?!」
彼女は信じられないという顔をしている。すみません、他の冒険者とほとんどコミュニケーションをとっていないので、当たり前の情報を僕は持っていないんです。本当に申し訳ございません。




