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85 体重の減った大樹

「見かけ倒しだったわね。」


 私の前には巨大な魔物が倒れている。巨象と呼ばれている魔物だ。動きは遅く、光魔法で心臓部分を貫いたらあっさりと動かなくなった。しばらくすると巨象は霧のように消え、ドロップが残される。その中でも象牙は高く売れるらしい。けれどお金には困っていないので興味は無い。


「わたくしの仕事が無いというのは良いことではあるのですが・・・。リコッテ様、少しぐらい怪我をされてもいいんですのよ?」


 そう話すのは回復魔法を得意とする魔術師サルミアキ。カンゾウがダンジョン踏破のために呼び寄せたのだ。しかし第二層の雑魚相手では怪我などしようが無い。現時点ではただの穀潰に近い。それを気にしての言葉なのだろうけど、下の階層に行けばいずれは働いてもらうことになる。


「あそこが第二層のボス部屋です。このまま向かわれますか?」

「当然! イチイチ戻ったりしたら時間の無駄よ。」


 私はカンゾウに言った。彼は過保護すぎるきらいがある。慎重さの度が過ぎているのだ。おかげで時間を無駄に浪費してしまっている。


 私はボス部屋の扉を開け、そのまま控え室を素通りし奥の扉を開けた。一度に戦える人数を制限するための仕組みらしいけれど、二重扉でまどろっこしい。


「大きな木ね。」

「大樹と呼ばれる魔物です。中途半端な攻撃ではすぐに治癒されてしまいます。」


 ボス部屋の真ん中に立っている巨大な木。ジャングルのボスは植物系の魔物らしい。そのまま近づいていくと、ツルのようなものが無数にこちらに向かって伸びてきた。どの程度の治癒能力があるのか興味がある。私は試してみることにした。杖に光魔法の力をチャージする。そして薙ぎ払うようにそれを放った。


 ブシュー


 光魔法の力で無数のツルはあっという間に消滅していく。そしてそのまま大樹の枝まで到達し、その周辺ごと蒸発していく。


「いつ治癒が始まるの?」

 私は待った。治癒能力を観察するためだ。しかし一向ににその気配が無い。


「どうやら治癒に必要な部位を削り取ってしまったようです。」

「あれでは修復は無理ですわ。待つだけ時間の無駄ですよ。」


 二人が状況を伝える。しまった、軽く撫でたつもりだったのにやり過ぎたらしい。これ以上得るものは無さそうなので勝負を付けることにした。


 攻撃力を失った大樹の前まで来た私は、闇魔法を木の内部へと流し込んでいく。大樹の葉が黄色、茶色、そして黒へと変わる。ハラハラと散り始め、幹の部分がしぼんでいく。強度を失った大樹はそのまま自分の重さに耐えきれずポキリと折れて倒れる。しばらくすると大樹はドロップを残して完全に消滅した。

 

「第二層じゃボスもこのレベルなのね。カンゾウ、宝箱の中身の回収は任せるわ。」


 ソルトシールダンジョンへ来てから、苦戦らしい苦戦をまったくしていない。故郷の村に来た冒険者達からは、ダンジョンは死と隣り合わせの恐ろしい場所だと聞かされていた。しかし実際はあまりにも拍子抜けで、未だ恐ろしさの片鱗すら見えていない。


「第三層は多少は期待しても良いのかしら? そういえばそこには村があるのよね?」

「はい、冒険者達が作った村があります。」

「ダンジョンの中に作れるものなの?」

「もともと村を作るための領域がダンジョン内に設定されていたようなのです。詳しい仕組みが分からないのでそういうものだとしか。一つ確実なのは、下の階層へ向かうときの拠点になっているということです。」

「へえ、じゃあそろそろ会えるかもしれないわね。」


 私は第三層へ続く階段を一歩ずつ下りていく。その一歩ごとに考える。さあ、どうしてやろうかしら。もうすぐ、もうすぐよ、アフタ。


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