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61 グイッと来ないGUI、キュイっと動かないCUI

 股の間にキャノンを持っているロボット、僕は奴から逃れるためそっと身を翻し、近くにあった扉を開け中に隠れる。


 心臓がバクバクしている。似ているだけなんだろうか? いや、あの特徴的な身体とそして顔、どう考えてもアイツだ。戦闘力とかそういう領分を超えて、色々な意味での危険性しか感じない。


 落ち着くために雑学を一つ。ロボットの構造は大まかに分けて、外骨格系と内骨格系の2種類がある。日本国産の有名なロボットは、外側のフレームで身体を支える外骨格系の物が多い。それに対し骨のような構造で内側から身体を支えるのが内骨格系だ。内骨格系の特徴は外側のスキンが柔軟に選択できることだ。SFに出てくるような人間そっくりのアンドロイドは内骨格系に属し、見るからにロボットっぽいタイプは外骨格系だ。


 そして奴は内骨格系ロボットだ。時代の先を行っていると昔、話題をさらったアイツにそっくりなのだ。とにかくあのキャノンが火を噴いたら、僕など粉微塵にされるに違いない。そして奴にはスキンが張られておらず、骨格はむき出しになっている。・・・これ以上、奴の出自については考えるのをやめた方が良いかもしれない。本当に危険なのだ。


 僕は周囲を確認する。部屋の中は、非常灯がうっすらと部屋を照らしている。見たところ色々な器具が置いてある部屋だ。僕は照明のスイッチを探す。たぶんこれだろう。実は罠で警報装置だとか言う落ちはさすがにあるまい。


 照明のスイッチを入れると部屋が明るく照らされた。いきなり攻撃してきそうな物はない。僕は散乱するように置いてある器具を確認する。半田ごて発見。おっLSIリーダ/ライタもある。どうやらここは工作室のようだ。他にも電子パーツっぽい物がケースに詰め込まれていた。それらを魔法の袋に放り込んでいく。もしかしたら後で流用できるかもしれない。ちなみに第四層に落ちている物は、この世界ではほとんどが無価値なのであまり高く売れないようだ。


 股の間にキャノンを持つ内骨格ロボットに見つからないように、他の部屋も探索してみよう。その前に僕は魔力計リストバンドを確認する。さっき30秒ぐらい使ったはずなのに、魔力は90%ほど残っていた。単純計算で残り4分30秒。いつの間にか僕の魔力が増加していたらしい。そういえば、あれだけ覚えたかった魔法は、何一つとして習得していない。まあ、汎用属性の僕じゃカネの無駄遣いにしかならないのだろう。上位魔法をバンバン使えるようなチート能力でもあれば良かったんだけどね。


 そして隠匿の指輪を細かく刻みながら使い、いくつかの部屋を回った。そこで使えそうな物を魔法の袋に詰める。泥棒ってこういう気分なのかな? まあ、ダンジョンだし、持って行っても問題ないよね?


 そんな中、とある物の前にたどり着く。目の前にあるのはノートPCだ。ついに出た。紙に書かれていたユーザアカウントを使うときが来たのかもしれない。


 僕はPCを立ち上げる。起動プロセスの出力がディスプレイに文字として表示されていく。この起動画面、OSはUnix系の何かだ。GUIは立ち上がらず、ユーザ名を求めるテキストのプロンプトが点滅する。僕はあのユーザ名を入力しようとし手が止まる。ええっと・・・CUI状態で日本語入力できないんだけど? どのキーを押しても、それっぽい挙動をしない。


 くそ、ユーザ名を日本語で設定したバカは誰だ? こういう時に困るだろう。僕はPCにリブートをかけ、ブートローダが表示された時点で割り込みをかける。どうやらローダのコンフィグレーションはロックされていないらしい。パラメータ設定を予測し、シングルユーザモード起動、ユーザ認証をスキップした。セキュリティがザルだ。まあ、現物を物理的に確保している時点で、セキュリティも何も無いんだけどね。ストレージ全体を暗号化されていたらさすがに厄介だけど。


 PCの管理者権限を得た僕は、中のデータを確認する。ネットワーク系の設定は入っていない。完全にスタンドアロンだった。そして登録ユーザは「Admin」一つだけ。どうやらあのIDとは無関係のPCのようだ。一発逆転のチャンスかと思ったのに肩すかしを食らった気分だ。とりあえずこのPCも魔法の袋に放り込んだ。後でもう少し調べてみよう。


 一通りの探索を終え、一度も戦闘をせずにこっそり建物を脱出する。なんだか逃げ隠ればかり上達していく気がする。さすがにカッチェレベルには及ばないけど。彼の隠密スキルは、その能力だけ考えれば剣聖や武王に匹敵するんじゃないかと思っている。あれだけの能力を持ちながら、第三層で大けがを負ったというのが逆に信じられない。「勝つ」ではなく「逃げる」のであれば、何とかなったはずなのだ。


 色々と謎が謎を呼んでいるような気がするけれど、まずは第四層の攻略だ。まともにやっても勝てないのなら、まともにやらなければ良いだけなのだ。相手のルールで勝てないのなら、勝てるルールを作れば良い。スポーツ競技でも、自分の国が有利になるようにルールを変えてしまうなんて良くあることだ。


 僕は終着の村へ戻る帰り道、装甲車を運転しながらそんなことを考えていた。しばらく戻らないと思って色々買い込んだんだけど、PCを手に入れたため発電機を作らなければいけなくなった。ということで村に戻って発電用のエンジンを作る。


 今回集めた物で上手く立ち回れば、第四層は意外とあっさり何とかなるかもしれない。




【  35日目  】

単価     個数  金額     項目           

-------------------------------------------------------------

  4万5000蝸  1個   4万5000蝸 風呂燃料売り上げ50%   

 -1万0000蝸  1個  -1万0000蝸 借金返済(8)       

  2万0000蝸  1個   2万0000蝸 鍛冶屋燃料売り上げ50%  

[ 残金 195万7800蝸 ]


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