5 こうしようと思った講師役
ここは冒険者ギルドの会議室らしい。ここで新米冒険者に講習会が開かれる。必要なときに随時開催されるようだ。僕が部屋に入ると、すでに一人席に座っていた。見るからに優男という感じだけど、この人も僕と同じ新規ギルド加入者だろうか?
「こんにちは。僕はサドン。今日、ギルドに加入したんだ。君は?」
さわやかに話す青年。でも、髪をかき上げながら自己紹介する必要は無いよね。
「あ・・こんにちは。僕も同じです。ええっと、名前はアフタです。あなたはの名前はサドンですね。」
見た目に似合わない名前だったので聞き返してしまった。僕のコミュ障が遺憾なく発揮されている。サドンは僕に色々なことを話しかけてきたけれど、僕の返答はほとんどが「はい」「そうですね」ばかりになった。しばらくすると初心者講習の講師役と思われる人が入ってきた。講師役の人はアクトンというおじさんだった。ギルドで総務をやっているらしい。おじさんはまず、僕達に空っぽの袋を配った。そして中身を取り出すように指示が出る。とは言っても、空っぽなんだけど・・・。一応紙切れでも入っているのかと、中に手を伸ばしてみる。「え?」僕は驚いた。中に色々な物が入っていたからだ。そして講師役のアクトンさんが内容の説明をする。
・魔法の袋(小)
一定の重量か体積を超えるまで、物を詰め込むことが出来る袋。中に物を入れても膨らんだり重くなったりしない。
・ライフポーション(低)×3
飲むと傷の回復速度を上げることの出来る魔法の薬、一度飲んだ後の再使用は3時間程度のインターバルが必要。
・スタミナポーション(低)×2
飲むと体力の回復速度を上げることの出来る魔法の薬、インターバルは30分でライフポーションとは競合しない。
・ダンジョン第一層のマップ
第一層の大まかな地図、フロアボスの位置も記述されている。
・コンパス
方向を示す、使えない場所があるらしい。
・採取ナイフ
戦闘用では無く素材採取用のナイフ、戦闘で使ってもあまり役に立たない。
・ランプ(満タン)
腰に下げることの出来るランプ。燃料に油を使用。ある程度振り回しても大丈夫な優れもの。
・ギルドカード
ギルド加入の証明書。ギルドに貢献すると上がるランクや、到達した層を登録でき、その度合いに応じてギルドのサービスが向上する。
僕は感動している。色々な物を渡されたけれど、特に感動したのは魔法の袋だ。こんな物があるとは!どうやらギルドに加入する費用には、こういったアイテムの費用も含まれているらしい。一方的にボられているわけではなさそうだ。これらを手にしたことによって胸が躍る。早くダンジョンに潜ってみたい。
そして講習会はダンジョンの説明に入った。ソルトシールのダンジョンは全十層。だれもそこまで踏破してはいないのだけれど、ダンジョンの構造を探索できるスキルを持った高名な占い師がいて、その人が出した結論らしい。現時点では六層が最長到達記録らしい。そういえば受付でもそんなことを聞いたな。
ダンジョンは広大で、一般的な洞窟を想像してはいけないらしい。地下に新たな世界が広がっていると考えた方が良いようだ。そして次の層に進むためには、必ずフロア最深部のボスを倒さなければならない。フロアボスの厄介なところは、ボス部屋の入り口が二重扉になっていて、資格を持つ者が四人以内という条件を満たさないと、奥の扉が開かないのだ。資格とは、まだそのフロアのボスを倒していないこと。つまり先行している冒険者に協力を仰ぐことが出来ないのだ。僕はコミュ障でソロで戦うことになるだろうから関係ないけどね。そして一度倒すと、その後はボス部屋をスルーできるらしい。
その他、ダンジョンで手に入る物は自分の物にして良いらしい。生々しい話だけど、ダンジョン内で死んでしまった冒険者の所持品も、発見者に所有権があるという。ただし所持品狙いで強盗を働こうとすると、ギルドカードに記録されて罰せられることになる。実はこの高性能なカードが、今回僕に与えられた中で一番高価だという。つまり紛失するとえらいことになる。他にも細かい話をしていたけれど、ここで語るときりが無いほどだ。
アクトンさんは一通り説明をした後、何か質問は無いかと言った。コミュ障の僕は黙っていた。隣でサドンが手を上げて質問する。
「もしフロアボスを無視して、穴を掘って次の層へいったらどうなるんだい?」
・・・僕にその発想は無かった。一瞬、すごいアイデアだと感心してしまった。しかしアクトンさんは呆れた顔をしてその質問に答える。どんなに掘っても次の層へはたどり着けないらしい。ただ土が出てくるだけだという。伝説だとダンジョンは神が作った物らしいから、そういう結果になっても不思議ではない。その程度の狡は想定済みなのだろう。
こうして講習会は終わった。夢にまで見たダンジョンまでは目前なのに、その目の前の場所が遠く感じるのは何故だろう?理由はある。まだやらなければならないことがあるからだ。