46 オイラのボイラー最強説
剣聖ブレア、その実力にブレは無い。あっという間にスケルトン達の中心へ入り込んだ彼女。そして次の瞬間、スケルトン達は天に召された。もう少し正確に言うと、バラバラに砕けながら上空へ吹っ飛んでいった。吹っ飛ぶ前に、爆発が起こったかのような圧力を感じた気がする。相も変わらず何をしたのか分からなかったけど、なんとなく回転切りをしたようなイメージが僕の中にあった。
吹っ飛んだスケルトンは、僕の所までバラバラと落ちてくる。さらには剣や鎧の装備品まで落ちてきて危険極まりない。僕はそれを防ぐので精一杯だ。そして何とか凌ぎきり、ようやくスケルトンの雨がやむ。その先には剣聖ブレアが立っていた。あのスケルトン軍団も、彼女の前では雑魚同然なのだろう。僕なら一体を相手にするのも難しい。
「しばらくするとまた出てくるわ。さすがに鬱陶しいから戻りましょう。」
「また出るんですか?」
「際限なくね。」
「うわぁぁ、戻りましょう。」
僕は彼女の後に続いて村へと向かう。スケルトンは無限湧きらしい。ますますクリア条件が厳しくなるなぁ。
村に戻った僕は彼女とお別れした。初パーティー終了だ。そういえばスケルトンのドロップを回収していない。もったいないことをしたな。
すでに辺りは暗くなっている。芋虫と蝶のドロップを売却して今日の作業を終了した。
日数 項目 金額 個数 合計 所持金
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25日目 食料 -1万1000蝸 1個 -1万1000蝸 66万3600蝸
25日目 建築資材 -6万8000蝸 1個 -6万8000蝸 59万5600蝸
25日目 芋虫の核 8200蝸 1個 8200蝸 60万3800蝸
25日目 怪蝶の核 1万3000蝸 1個 1万3000蝸 61万6800蝸
25日目 怪蝶の羽 8500蝸 2個 1万7000蝸 63万3800蝸
26日目スタート。そういえば日本の感覚だと昨日の25日は給料日だったんだよなぁ。しかしこの世界での僕は完全歩合制、稼がなければ野垂れ死ぬのみだ。昨日は剣聖ブレアという最強のボディーガードのおかげで、かなりの楽が出来た。
今日、まず最初にやることは、昨日取り損なったスケルトンのドロップの回収だ。僕は意気揚々と村を出て、昨日の戦闘ポイントへ戻る。
・・・何も無い。すでに誰かに拾われたのか、それとも時間で消えてしまうのか。僕は意気消沈して村の方向へ戻る。そこでエンカウントだ。ゾンビ!?
僕は恐る恐る近づく。そのゾンビは倒れたまま動かない。・・・っと、そう思ったけれど違うらしい。アンデッドが出現する階層なのでかなり警戒してしまった。よく見れば倒れている冒険者だ。そして生きている。どうやら村の門直前で意識を失ったようだ。
僕は倒れている冒険者の呼吸や脈を確認する。弱ってはいるけれど、致命傷は受けていないようだ。息があると言うことは、やっぱりアンデッドでは無い。顔は真っ青だけど、かなりのイケメンで身体は小柄だ。装備からみてスカウト系だろうか? ポーションを飲ませるかどうか迷ったけれどやめた。ボーション代が惜しいからでは無い。彼がいつポーションを服用したか不明だからだ。下手をすると状態を悪化させる恐れがある。
マジックアイテムの中には、ポーションの再使用時間を確認するものがあるらしい。しかしボッチの僕は自分で時間管理できるので、当然のごとく持っていない。
僕は彼を背負い、村へと戻った。そして治療院へ向かう。この村の治療院、僕は利用したことが無いけれど、けっこうなぼったくり価格だ。そこへイケメン冒険者を放り込むと、早々に立ち去ることにした。下手をしたら僕が治療費を払わされてしまうからだ。
そして僕は、今日必要になる物資を購入する。さあ、作業の続きだ。立派な露天風呂を作ろう。僕が作業ポイントへ行くと、誰かが風呂にいる。
「あの・・・スコヴィルさん?」
風呂好き魔術師スコヴィルだった。
「アフタ君、おはようございます。」
「おはようございます。ええっと、何しているんですか?」
「朝風呂です。」
僕は彼女の方をあまり見ないようにして話した。そもそも僕は人の顔とか目を見て話すのが苦手なのだ。とうとう身体まで見られなくなるとは・・・。
しかし朝風呂とは、彼女はどれだけ風呂好きなんだろう? しかし、そもそも朝風呂をするには致命的な問題がある。
「水・・・冷たくありません?」
「そうですね、ちょっと悲しいです。」
残念そうに答えるスコヴィル。ボイラーを動かさないと、お湯は作れないのだ。しかたなく僕はボイラーを稼働させる。早く暖めるため、出力は強に設定した。
「お湯になるまでしばらくかかりますよ。」
「大丈夫です。このまま待ってますから。」
「・・・僕は作業してますね。」
彼女のことは気にせず、昨日集めた資材を使って作業を始める。目隠しや更衣室を作る作業なので、湯船の中に誰かがいても邪魔にはならない。湯船の方からは、なんだか聞いたことがあるような気のする鼻歌が聞こえてくるのだけど、ボイラーの最大稼働音でどんな歌なのかハッキリとは分からない。
とにかく作業だ。まずは目隠しの為の杭を打ち込んでいく。さらに剣聖ブレアが良い感じに太鼓挽きした木材の板をはめ込んでいく。こんなところで使うにはもったいないほどの材質だ。香りはヒノキに近い。なかなか風情が出そうだ。目隠しを作ったところで、さらに脱衣所を用意する。そして余った材料で桶を作る。素人大工にしては良く出来た方だろう。
「よし出来た。完成!」
僕はガッツポーズをとる。そして風呂の中にスコヴィルがいることを思い出し、ちょっと恥ずかしいのでポーズを元に戻した。その瞬間、地面が揺れる。また村が成長した? 今度は何が出来たんだろう?
ふと、僕は違和感に気づく。スコヴィルの鼻歌が止まっていたからだ。アレ? 僕は彼女の方を見た。いや、見たと言ってもそんな見てないよ。うん、彼女は風呂の中にいる。しかし・・・なんか頭がお湯の中に沈んでない? 潜ってるの? ふと原因が頭をよぎる。お湯を早めに温めるため、ボイラーの強さを高く設定してあったのだ。そして僕が作業している間、ずっとそのままだった。たぶん風呂はベランメイな頑固爺でさえ逃げ出す危険な温度になっているはずだ。
「大丈夫ですか?」
僕は慌てて彼女に駆け寄る。返事が無いので僕はそのままお湯に飛び込むんだ。熱ぅぃ、なんでこんな温度でずっと入ってたんだ? 僕は彼女の身体を抱え、風呂から引き上げる。うごぉぉぉ、ラタイ、裸体、軟らかい。いやいや、感触うんぬん関係ないから!
どうしよう、どうしよう。そうだ水、水だ。僕は水路から水を汲んで、彼女のラタイじゃなくて身体に浴びせる。出来るだけ見ないように。本当に頑張って見ないようにしてるよ?
「ん?」
彼女がごそごそと動き出す。そして目を開けた。
「良かった。一時はどうなるかと思いましたよ。」
「もしかして逆上せました?」
「はい。」
「よくやっちゃうんですよね。それで、お母さんにしかられて・・・。」
受け答えが出来ている。どうやら意識はハッキリしてきたようだ。
「大丈夫そうなら向こうへ行っていますから、服を。」
僕は彼女が目に入らない範囲へ離れた。
露天風呂を作ってから、サービスシーンが多すぎるよ。




