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3 穴場の河川は貸せん

 村の人の親切に甘え続けるわけにはいかない。

 僕は前世の知識を生かして何か出来ないかと考えた。

 肥料にカルシウムを配合して土壌をアルカリ性に近づけてみたり、殺虫効果のある草花を利用して農薬を作ってみたり。

 ところがこの村は、もともと土壌の質が良く、肥料を改良しても効果の具合が今ひとつ分からない。

 殺虫剤に関してはそれなりに役には立ったけれど、劇的に収穫量が増えるような効果は無い。

 生産力向上という面では、効果が微妙なラインだった。


 結果、農業は諦めた。

 かわりに近くに川幅の広い河川があったので、魚を捕ることにした。

 この村では、魚を趣味で釣りに行くことはあっても、本格的な漁業は行われていなかった。

 両親が生きていた頃は、父と魚釣りに出かけたこともあった。

 半日ほどで僕と両親の三人分のおかずの確保ぐらいは出来きた。

 しかしそれだけでは意味が無い。

 一本釣では効率が悪いので、川に魚を捕獲するための仕掛けを設置することにした。

 漁業権は設定されていないので、誰に文句を言われることも無い。


 魚の通りそうなルートを石で囲い込み、その奥に植物ツルで編んだ網を設置する。

 半日ほど別の仕事をした後に戻ってくると沢山の魚が入っていた。

 さらにウナギを発見した。

 この世界にもいるようだ。

 一人では食べきれない量の確保に成功し、近所で小麦と交換してもらう。

 ただ、ウナギは評判が悪かった。

「ちょっと気持ち悪くて食べられない」

 それが村人の意見だった。


 僕はウナギを白焼きにして塩を振って食べた、旨い。

 塩は岩塩が村の近くで手に入るので、取り立てて貴重な調味料では無い。

 しかしこうなってくると醤油が欲しくなる。

 村では大豆も育てているので、醤油や味噌を造ることは可能だ。

 今更ながらに、この村は恵まれていると思う。


 魚は十分捕れることが分かったので、次は水車を作ってみることにした。

 木材は豊富にある。

 工具も借りることが出来た。

 試行錯誤しながら組み上げていく。そしてあることに気がついた。

 川は水位の変動が激しすぎて、そのまま設置するのは不可能だ。

 僕はひたすら川の近くに水路を掘った。

 そして長い期間をかけ、ようやく水車の設置が完了する。

 苦労しただけあって、小麦を()いて小麦粉が出来たときには感動があった。

 得意げに村人に見せたら、そんな手間をかけて作るのだったら、手で碾いた方が早いという反応だった。

 しかし水流がある限り、小麦粉が作れるということが理解されるにつれ、便利な物だと納得してくれるようになった。


 こうして前世の知識を生かして色々な物に挑戦し、村の役に立とうと頑張った。

 コミュ障の僕は、同年代の子供と遊ぶことも無く、黙々と働いた。

 けれど村長の孫のリコッテだけは、僕の周りにいることが多かった。

 コミュ障の僕は自分から話しかけることは無かった。

 僕の作業をリコッテがじっと見つめて、たまに質問してくる。

 それに僕が答えるといった具合だ。

 見ているだけで何が面白いのか分からないけれど、リコッテは僕が作業していると、近くにいることが多かった。


 僕は得られた物を小麦と交換し、そして小麦粉を沢山作った。

 それを月一程度でやってくる行商人に売る。

 そうして少しずつお金を貯めていくのだ。

 けれど僕の作った小麦粉は一回に1000シュネ前後にしかならず、100万シュネは果てしなく遠かった。

 僕は他に儲ける方法は無いか考えた。

 そして思いついた。そうだ薬を売ろう。


 僕はインフルの時に活躍した草を探した。

 真冬で無ければ見つけるのは容易だ。

 毒抜きをし煮込んでから乾燥させ、粉末状にする。

 試しに自分で飲んでみると甘い。甘味料としても使えそうだ。

 もともと村では薬草として知られていたものだけど、乾燥させて保存できるようにという発想はなかったようだ。

 そして風邪を引いた村人がこれを飲むと、症状の改善が通常より早まったようだ。

 僕は行商人にサンプルを渡し、評判が良ければ次から買い取って欲しいと頼んだ。

 結果から言うと、それなりに成功した。

 僕が作った薬は、風邪の薬では無く疲労回復効果が評価されたようだ。

 それによって一回の収入が2000シュネ増えた。


 しかし100万シュネまでの道のりは遠い。

 旅費を考えるともっと稼がないとならない。

 僕は川で新たな仕掛けを作っているときに、大変な物を発見した。

 砂金だ。支川(しせん)から本流(ほんりゅう)へ流れ込んでいる場所で発見した。

 どうやら支川の方から金が流れ込んできているようだ。

 念のため僕は砂金を石で叩く。

 もしこれがただの黄色い石だったら、砕けるはずだ。

 力を込めて何度も叩く。

 そして見てみると砂金は伸びていた。

 この柔軟性は間違いなく金だ。


 その日から、僕は時間が空くと自作の編み目皿で、川砂をすくっては選り分けた。

 僕は金を袋一杯に集めた。

 そして行商人にそれを売った。

 行商人はそれを見てびっくりしたような顔をして、どこで拾ってきたのか聞いてきた。

 もちろん大事な情報だったので教えなかった。

 行商人は「本気で聞いたわけじゃ無いから安心してください」と、ちょっと残念そうな顔で言った。

 そして砂金の入った袋を1万シュネで買い取っていった。

 僕は相場がよく分からなかったので、こんなものかと納得した。

 それよりもソルトシールで冒険者になる日がぐっと近づいたのがうれしかった。


 それから月日は流れ、僕は12歳になった。

 その間に色々と売り物を増やし、そしてついに所持金が100万シュネを超えた。

 僕は村の人達に旅立ちを告げた。村人達は驚き、口々に残念だ、寂しくなると言ってくれた。

 ただ誰も行くなと言わなかったのは、僕がコミュ障だったからだろうか?

 そんな僕にも行くなと言ってくれる人がいた。

 リコッテだ。


 リコッテは僕を婿にするつもりだったらしい。

 頭が良くて働き者だからと、村長は僕を後継者にしようとしていたらしい。

 そう言い聞かされて育ったリコッテは、僕をずっと未来の旦那様だと認識していたのだ。

 置いていかないでと泣かれたけれど、連れてはいけない。

 僕はゴメンと謝るしか無かった。

 

 ところで村長、コミュ障の僕を村の長に据えちゃ駄目でしょ。

 僕はこの時そう思った。


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