25 無心となって虫は無視
9日目がやってきた。僕は考えた。第二層を安全に探索するためには、極力敵と遭遇しなければ良いのだと。現在そのための準備を行っている。昨日拾った香りの強い草に蒸気を当てて、成分を取りだしているのだ。これでハッカ油のような物が出来るはずだ。しかし・・・時間がかかる。このまま一日が終わりそうだ。僕は昨日の残りの食料をパクつきながら、ひたすらハッカ油が生成されるのを見守った。結構な量の草を投入しているにもかかわらず、使える上澄み液はこく僅かしかとれない。そして9日目が終了した。
日数 項目 金額 個数 合計 所持金
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9日目 蒸留機材 -3500蝸 1個 -3500蝸 5万5000蝸
9日目 燃料 -3000蝸 1個 -3000蝸 5万2000蝸
収入が全く無い日になってしまった・・・。
10日目が始まる。ハッカ油は完成した。アルコールと混ぜて瓶に入れてある。今日も朝食後食料を買い、そして第二層に到達する。
さっそくハッカ油を布に染みこませ、それを身体に巻いた。ツンとする香りが鼻を抜ける。けっこうキツい。この臭いを虫が嫌うはずだ。僕は第二層のジャングルを進む。香りのおかげか、今日は蜘蛛と遭遇しない。
いつも通り草花や果実を収穫していく。そして少しずつマップに書き込む範囲を広げていく。どうやら幸先は良さそうだ。一つ欠点があるとすれば、虫が寄りつかないので、その辺りの素材回収が出来ないことだ。まあ虫は安いから無視して構わないだろう。
第二層のジャングルを進んでいくと、水辺のような場所に出た。ぱっと見、きれいな泉のようだ。そしてふと思い出す。こういうところの水辺って、危険な動物が水を飲みにやってくるということを。僕は怖くなって周囲を確認する。ハッカ油は虫には効くだろうけど、動物っぽい魔物には効きそうに無い。
そして「グルル」という嫌な声を聞いてしまう。僕が声の方向を確認すると、虎のような大きな魔物がギラついた目で僕を睨んでいた。あれは獲物を狩る目だ!
マズい、マズい、マズい。
一つだけ幸いがあるとすれば、虎の魔物の位置が泉を挟んで反対側だということだ。そして虎が泉の迂回を始める。勝ち目が無いというのを本能で確信した僕は、一目散で逃げ出した。
とにかく走って走りまくる。相手のテリトリーから出なければ。小さな丘のような所を乗り越えて、体力の限界まで走ったところで僕は考える。スタミナポーションを使うべきか、隠匿で様子を見るべきか。そして僕は隠匿を選んだ。
木の陰に隠れ隠匿の指輪を発動させる。効果は1分間だ。僕はいったん歩を止め虎が追ってきていないか確認する。・・・いない。どうやら撒いたようだ。と、思ったのもつかの間、死角になっていた茂みから飛び出してくる虎。隠匿残り35秒。
虎は僕の鼻っさきで臭いをクンクン嗅いでいる。隠匿が臭いまで隠してくれるのかは分からないけれど、そうであることを祈るしか無い。残り25秒。虎は相変わらず僕の周りを彷徨いている。・・・攻撃すべきか?否、ギリギリまで待とう。残り15秒。息を殺し虎の動向をうかがう。残り5秒。僕は覚悟を決め槍を構えた。
すると突然、虎が方向転換し走り去っていく。残り0秒、隠匿の効果が切れた。助かった。どうやら逃げ切りに成功したようだ。そう思ったのもつかの間、ドシンという地響きで声をあげそうになる。
今度は巨大な象だ。しかし大きさが尋常では無い。高さは・・・四、五メートルはある。突然の出現、瞬間移動でもしたのだろうか?いや違う。さっき、小さな丘だと思った場所がそれだったのだ。
隠匿は使用不能。そしてドシン、ドシンと近づいてくる巨大な象。逃げなければ踏みつぶされる。再び走り出す。とにかく走った。走った先には真っ黒い色の沼がある。これ以上先に進むことは出来そうに無い。後ろを振り返ると・・・巨象の姿は無かった。逃げ切ったのか、そもそも僕をターゲッティングしていなかったのか。
しばらくの間様子を見ていたものの、結局それ以上何も起こらなかった。そしてふと気づく。何だろうこの臭い?コールタールのような、アスファルトを舗装した後のような・・・。もしかして黒い沼の臭い?
僕は沼を確認する。近くに落ちていた棒を拾い、沼に突っ込んでみる。ドロッとした黒い液体が棒に付着した。僕はその臭いを確認する。もしかして原油?
僕はこんな所で油田を発見した。元の世界だったら大金持ちだよね。とりあえず5リットルほどサンプルとして採取した。今回はこんな所だろう。




