21 相手は蜘蛛で僕は苦悶
7日目スタート。朝食セット800シュネ、食料を4000シュネで購入。さらに筆記用具購入で1200シュネ。ギルドクエストがいくつかあるようだけど、とにかく今日は第二層へ行ってみようと思う。
一気に第二層へワープするような便利な転移陣とかは存在しない。地道に歩いて行くしか方法は無い。いや、もしかしたらあるのかもしれないけれど、知らない物はどうしようも無い。サドンも第二層へは徒歩で向かっていたので、現時点では無いと思った方が良いのだろう。
途中、コボルト2匹とスライム1匹を倒し、ボス部屋の前までやってきた。今日も行列が出来ている。ふとその横を見ると、光り輝く何かが地面から漏れている。他の冒険者達は気づいていないのだろうか?僕はその光へと近づいていく。すると突然その光が大きくなった。僕の目の前が真っ白になる。
・・・ボス部屋だ。ここは第一層のボス部屋だよね。さっきのは第一層のボスを倒した人専用のファストパスなんだろう。どうせなら二層まで送ってくれれば良いのに。僕はボス部屋の真ん中に出現した螺旋状の階段を降りていく。
階段は長い。けっこうな距離を降りている気がする。そして降りるごとに空気が変わっていく。温度が上がり、ムシムシしていく。なんだか熱帯植物を展示してある温室に入ったような感じだ。螺旋階段の終着点が見えた。出口と思われる穴が見える。そこからは光が漏れていた。僕は穴を通過した。
ここが第二層。ええっと、なんというか、一言でわかりやすく表現すると・・・ジャングル?
「なんだこれ?」
僕は声に出して言った。ここはダンジョンだよね?一層目は洞窟だった。まあダンジョンだし、そういうものだよね。そして作りが変わるにしても、もしここが遺跡風な感じの作りだったら納得していただろう。でもジャングルって何?
温度も湿度も高い。熱帯っぽい木々が生い茂っている。それっぽい鳥の鳴き声が聞こえる。そして明るい。僕は空を見上げた。いや違うのか。つい空と言ってしまったけれど言い直す。天井を見上げた。見事な青空だ。
色々突っ込みたい。突っ込んで突っ込んで突っ込みまくりたい。穴があったら突っ込みたい・・・やめよう。空は青空ではあったけれど、太陽が無い。ところが第二層はとても明るい。僕は油がもったいないのでランプを消した。
とにかく探索開始だ。第一層はマップを所持していたので迷うことは無かったけれど、ここからはそれが無い。チュートリアルは終わったのだ。僕は目印になりそうな地形の情報を紙に書き込んでいく。ある程度離れても確認できるように、背の高い木等の情報を中心に書いていく。一つありがたいことは、第一層への通路が巨大な塔のようになっていて、見失う可能性がまず無いと言うことだ。
僕は槍を構えつつ、警戒しながら進んでいく。ガサっという音にびっくりして槍を構え直したものの、遠くの方を歩いていた冒険者パーティーだった。第二層は木や草が多く、見通しが悪い。第一層は全体的に暗いものの、大空洞のような形状だったため、見通しは悪くなかった。目をこらして確認すれば、敵の位置を掴むことは可能だったのだ。
そこで僕はマズいことに気がついた。障害物が多すぎて投石が困難なのだ。そうなると槍を中心に戦うことになる。第一層と同じ戦法はとれないだろう。
僕は出入り口から離れすぎないように、円を描くように辺りを探索した。とりあえずそれっぽい草花を採取してみる。樹液のようなものもあったけれど、入れ物が無い。次回は持ってこよう。なんだかよく分からない南国風の果実もゲットした。毒があるかもしれないので、持ち帰って聞いてみよう。
そしてついに第二層の魔物とエンカウントした。1メートルぐらいありそうな巨大な蜘蛛だ。いや、もう少し小さいかもしれない。とにかく巨大な蜘蛛だ。どうしようとか考えるだけ無駄、倒さないと来月分の家賃すら支払えないのだ。
僕は槍を構えて突撃した。そして蜘蛛の身体めがけて槍を突き刺す。サクッという土の感触が手に伝わる。蜘蛛は・・・いない。そこには地面しか無かった。僕は槍を引き抜き構え直す。その場でクルりと回りながら、360度視点を変えて蜘蛛を探す。どこにもいない。
逃げたんだろうか?僕は辺りを警戒しながら、この場を離脱しようと一歩進む。その瞬間、何かが頭に降ってくる感触があった。それを手にとって確認する。白い・・・糸?
僕は見上げた。そこには木の枝にぶら下がっている蜘蛛がいた。なんと、あの大きさを支えて枝は折れないのか?そんな、この場ではどうでも良いことを考えていると、蜘蛛は次の行動に出た。大量の白い物、糸を噴射したのだ。糸はあっという間に僕に巻き付いてくる。このままだと、考えるまでも無い。身動きがとれなくなって蜘蛛の餌だ。周囲に他の冒険者の気配は無い。
ふと僕は冒険者ギルドのおねえさんの言葉を思い出した。
『ただ・・・第二層はパーティーを組んだ方が良いわよ。一層と同じ感覚で降りていって、死んだ人を何人も知っているから。』
ああ、それは僕のことか。




