207 甲斐性無しは解消されない
サドン、スコヴィル、ブレア、ボロディア、この世界にいたプレイヤー達は、みんな元の世界に帰って行った。仮想世界の実体化が完全に終わると、アバターが実体化して精神が定着してしまう。そうなった場合、元の世界へ精神を戻すことが出来なくなるのだ。
「元の世界へ帰らなくて良かったの?」
リコッテが僕に聞いてきた。
「まだやらないといけないことが残ってるんだ。」
僕に残された仕事、それはAIリコリスに本当の命を与えることだ。僕は彼女を停止させた後、その核となる部分を回収していた。そしてそれは今、僕の中にある。僕はリコッテにそれを説明した。
「でも・・・どうやってリコリスを人間に生まれ変わらせるの?」
「う~ん、それがとても難しい問題なんだよね。リコリスの魂を宿した子を産んでくれる母親が必要なんだ。」
「つまりどういうこと?」
「リコリスは僕の中にいる。つまり僕が誰かと子供を作らないと、リコリスは人間になれないんだ。」
「へえ、そう、ふ~ん。」
そう、コミュ障の僕が恋人作って、あまつさえ子供をもうけるなど出来ようはずが無い。この世界に残ってはみたものの、もしかしたらリコリスは生まれ変われないかもしれない。不甲斐ない父を許して欲しい。
「ねえ。」
「ん?」
「ねえってば!」
「どうしたのリコッテ。」
リコッテは顔を赤らめて口を膨らませている。おたふく風邪か?
「いいわよ。」
「何が?」
「いいって言ってるの!」
「いや、だから何が?」
プリプリと怒っているリコッテ。僕はまた何か地雷を踏んだのだろうか?
「私がリコリスを産むって言ってるの!!!!!」
「ハ?」
「な・に・が、『ハ?』なのよ!」
いやちょっと待て。その流れを追っていくとつまり・・・。
「いやだってそれって・・・。」
「馬鹿。」
「グフゥ。」
リコッテのボディーブローが、僕のみぞおちへ完璧に決まる。おかしい。ステータスカンスト状態の僕に何故こんな強烈なダメージを・・・。
僕がお腹を抱えて悶絶していると、リコッテは僕に背を向けて歩き出した。
「ほら、行くわよ。」
「ちょ、待って。」
僕は未だダメージの残るお腹をさすりながら、彼女の後を追った。
こっちの件が終わったら、スコヴィルやブレアとの約束を果たしに元の世界へ行かなければならない。約束は約束だから、何年後になるか分からないけれど、いずれは世界を渡る通路を構築して戻るつもりだ。ギスケが元の世界への通路を開く演算式を既に構築済みらしい。その時は、アバターのこの体で行くことになる。
元の体は精神とのリンクが完全に絶たれたから、たぶん死んでるか植物状態になっているだろう。もしかしたらスコヴィルが僕の葬式に参列してるかもしれない。彼女は僕がここに残ることに最後まで反対していたけれど、いずれ必ず会いに行くと約束して納得してもらったのだ。
僕とリコッテはボリハ村を目指す。長かったのか短かったのかよく分からない冒険はこれで幕を閉じるのだった。
END
そんなふうに考えていた時期が・・・僕にもありました。まさか異世界の神の一族が避難してくるなんて予測できるわけがない! アグレトという悪魔からその他大勢も救出してくれって? リコリス、助けに行くってお前、この間までオシメしていた子が何を言っている? 敵はレイアちゃんの息子だったこともある、僕と同郷の人物? 意味が分からない。いったいどうすりゃ良いんだ?
本編完結です
この後は主人公の名前の由来等のネタバレ的なのを書く予定です




