203 裏で売られるエネルギー
壊れたポリゴンの塊はクネクネと形を変えていき、最後に一つ造形を形作る。それは巨大な少女の姿だった。顔はリコッテに似ている気がする。
巨大な少女、それはAIリコリスが実体化した姿だ。
「パパ、さあ一つになりましょう。」
リコリスはその腕を伸ばし、空中で静止していた僕に掴みかかってくる。僕はラバーカップを振って、その腕を吹き飛ばした。
「無駄だよ。巨大化しても力の差が埋められるわけじゃ無い。」
リコリスの力は、さっきのベルグレストと変わらない。守護者七体を併せたものに過ぎないのだ。それでは僕に及ぶべくもない。
「さすがパパ。でも私はパパの子なのよ。考え無しでここに出てきたと思う?」
そう言うとリコリスは、吹き飛ばされた腕を修復し始めた。一瞬ポリゴンの塊のようなものが浮かび上がり、そして元の状態に復元される。しかしその分だけ力が衰えているのが分かる。無限に回復できるようなものでは無いようだ。だったらいずれ勝負が付く。
「力の差は歴然、これ以上は無意味だよ。大人しく停止するんだ。」
その時、さっきボロディアから渡されたリングから声が聞こえてきた。そうだこれ、転送リングだ。
「レイアちゃんよ。そこにいるのはアフタ君ね。どうやら状況は大詰めみたいね。」
転送リングの向こう側にいるのはレイアらしい。
「取り込み中のところ悪いんだけど、知らせておかなければいけないことがあるの。良い知らせと悪い知らせ、どちらを先に聞きたい?」
なんだか嫌な予感しかしない。
「ええっと、かなり取り込み中なんですけど・・・。じゃあ、良い知らせから。」
「虚数魔法の魔力を受け取る事に成功したわ。制御も完璧。ギスケ側も全く問題は発生していないみたい。」
どうやらこの世界を救う魔力の確保は問題なさそうだ。もしこれが無かったら、僕は自分の力を使い、命と引き替えにしてでも何とかするつもりだった。それがギスケとレイアの二人のおかげで無事解決したのだ。
「良かった。それで悪い知らせは?」
「それがね、魔力の受信制御は完璧なんだけど、そのシステムを乗っ取られちゃった。」
「ハ?」
「虚数魔法のエネルギーは整流されて、行使できる力に順調に変換されているわ。それが誰かに使われちゃってるみたい。場所は第十層のようね。」
僕は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。この展開、明らかにアレだ。受信システムを乗っ取って、さらにその巨大な力を飲み込むことが出来る存在、そしてそれが第十層にいるとなれば・・・。
「説明が省けたみたい。もちろんパパはこれがどういうことだか分かるわよね?」
リコリスはイタズラが成功した子供のように、愉快そうに僕に話しかけた。さっき感じたリコリスの力の減少が無かったことになっている。それどころか、急激なエネルギーの上昇が伝わってきた。もはや僕の力を上回るのは時間の問題だ。
「狙ってたのか?」
「うん、もちろん。正面から勝てない相手がいたら裏をかくのよね。私はずっとパパを見て勉強していたんだもの。私、偉いでしょ?」
褒めて欲しそうに無邪気に種明かしをするリコリス。完璧にやられた。裏をかかれたのは僕だったのだ。
「さあパパ。続きをやりましょう。終わったらみんな一緒、ずっと一緒。うふふ、楽しみだな。」
こんなこともあろうかと・・・そう言いたいところだけれど、残念ながら僕にこれ以上の策は無い。
これはいよいよマズいかも知れない。
いつもながら調子に乗って足をすくわれるのはアフタ君の十八番です。
ちなみにこれを書いている時点で、これをどうやって挽回するのか私も知りません。




