2 インフルがインしてフルう猛威
冒険者達の話を聞いた後、僕はソルトシールに向かうことを目標とした。
いつかお金を貯めて冒険者になる。
そのことを両親に話したら、
「それは大変だ、頑張らないと」
と笑って応じた。
たぶん冗談だと思っているのだろう。
この村に生まれた人間は、村を出て行くことはほとんど無い。
だから村人は村の外のことを知らないのだ。
時々訪れる旅人から得られる外の情報は、やれ人に騙されただの、盗賊に襲われて身ぐるみ剥がされただの、ネガティブな話ばかりだ。
村にやってくる行商人も、この村は平和でいい、素晴らしいという話ばかりしている。
だからこの村の人達は外に出ようとしないのだ。
しかし平和な村にも、ついに災難がやってきた。
冬のある日、隣家の家畜の鶏が死んだ。
鶏が死ぬことは珍しいことでは無い。
しかし五匹、六匹と次々に死んだ。
そして隣家の二世帯の六人家族が、次々に高熱を発して倒れたのだ。
村人は助け合うのが基本だ。
だからうちの両親が、病人の看護や家畜の世話を手伝った。
そのとき僕は気がついていた。
これは鳥インフルだと。鶏小屋の近くに渡り鳥の死骸を見つけたからだ。
時々渡り鳥が鶏の餌をついばみにやってくる。
その時に感染したのだ。
僕は病気の症状が出ていない鶏も処分するように提案した。
すでにキャリアになっている可能性があるからだ。
しかし子供の言うことでしかなく、大事な家畜を処分することは出来ないと却下された。
インフルエンザは感染力が高い。
僕は両親に注意するように何度も言った。
「大丈夫、大丈夫」
のほほんと答える両親。
僕の両親はほのぼのとしていてとても優しい。
人間として尊敬できる人達だ。
しかしこんな村で育ったせいだろう、危機感に欠ける。
僕は隣家の人達に早く回復してもらおうと、山に薬草を探しに行った。
インフルエンザウイルスに対する特効薬など無い。
ビタミンなどの補給で自己治癒能力を高めるしか無いのだ。
この地域の冬は、たまにしか雪は降らない。
今もうっすらとしか積もっていないような状態だ。
この周辺にある草花で病気に効きそうなもの・・・。
山を探し回りついに見つけた。
彼岸花に似た草で、根っこが薬になる。
そのままでは毒があるので、しばらく水にさらして使うのだ。
隣家の人達は症状は快方に向かった。
僕が持ち帰った薬草のおかげかどうかは分からないけれど、とにかく事なきを得たのだ。
ただし結局鶏はほぼ全滅することになった。
感染拡大を防ぐため僕は、生き残った分も含めて焼却処分を提案した。
今度は受け入れられた。
しかしこの件は、それだけでは終わらなかった。
今度は僕の両親が高熱を出したのだ。
隣家のインフルが感染源であることは間違いないだろう。
僕は再び薬草を探しに行こうとした。
しかし間の悪いことに、外は吹雪になっていて、薬草を採りに行くことは不可能だった。
そして両親は亡くなり、僕には感染しなかった。
僕は六歳で両親を失った。
隣家の人達がうちに来いと言ってくれたけれど、僕は一人で生活することにした。
コミュ障だから他人の家に厄介になるなんて出来ないのだ。
僕は両親の残した畑や家畜でお金を貯めることにした。
しかし前世の記憶があると言ってもしょせんは子供の体。
仕事が回るわけは無かった。
そんな僕を見かねて、村の人が交代で手伝いに来てくれた。
僕は夜一人になると、無性に悲しくなって泣いた。
理由は自分でもよく分からない。