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195/208

195 倉庫にあると嬉しい装甲の予備

「ッッ、 馬鹿な!」

 カンゾウの口から驚きの言葉が漏れる。僕の剣撃は彼を圧倒し、競技場の壁に向けて追い詰めていく。ついさっきまでのおぼつかない動き、そこから一転した僕の豹変ぶりに、カンゾウの対処は完全に遅れていた。


「はぁぁぁ!」

 僕の一撃はカンゾウの頬を掠める。もちろんそこで攻撃を休めるつもりなど無い。さらに力を乗せ、次々に攻撃を叩き込んだ。受けきれないと思ったのだろう。彼は壁に激突するのを覚悟で後方にに飛んだ。


「ぐぅぅぅ。」


 壁に体を叩きつける形になったカンゾウはうめき声を上げる。おそらく体に対するダメージは無いに等しいはずだ。しかし圧倒されたという状況が、精神的に彼を追い詰めているはず。退路が断たれたカンゾウは上に飛んだ。僕はその軌道を読み、最適な場所へと跳躍する。


「図に乗るな!!!!」


 カンゾウの体から黒いオーラのようなものが立ち上る。跳躍中の僕はそれを無視するようにカンゾウに剣を突き立て、そして左肩を貫く。やった、そう思った瞬間、僕の脳に警告シグナルが送られてくる。


 ガン、ゴロゴロゴロ


 気がつくと僕は地面に叩きつけられていた。腹部の装甲に甚大な損傷が報告される。どうやらカウンターを食らったらしい。そして一歩遅れて痛覚のフィードバックだ。


「ガハァ」


 あまりの痛みに耐えかねて、僕は膝をついた。しかし向こうもタダでは済んでいないはずだ。今のうちに体勢を整えよう。そう思ったのが甘かった。未だに膝をついている僕の目の目と鼻の先に、カンゾウの妖刀の刃が黒くきらめいていた。回避不能、完全に間に合わない!


 カキーン


 刃の軌道が逸れた。代わりに目の前に見えるのは・・・サドンの剣だ。


「アフタ、大丈夫かい?」

「ああ、ありがとうサドン。」

 そう、僕はソロで戦っているのでは無いのだ。


 バキーン


「私も手伝う。」

 カンゾウが競技場の中央へと吹き飛ぶ。それはブレアの一撃だった。


 いったん周囲の状況を確認する。リコッテは観客席の方へ待避済みだった。スコヴィルは現在もリコッテを治療中、そしてそれを守るようにカッチェ。ヒーラーの女は最初にいたのと同じ場所に立っている。こっちの戦いに参加するつもりも無ければ、リコッテに何かしようとする気配も無い。いったい何を考えているんだろう?


「さて、三対一というわけだけど、降伏するつもりは無いのかい?」

「降伏して何になる? お前達もどのみち私を倒さねば、ソルトシールの至宝は手に入らない。ならば決着を付けるのみ! ぐぉぉぉぉ!!!」


 サドンの降伏勧告は意味をなさなかった。カンゾウはさらなる守護者の力を引き出そうと雄叫びを上げる。 いや、たぶんあれは守護者の力では無い。あの妖刀に自分の命を吸わせて、力を引き出しているのだ。通知されてくるカンゾウのステータスデータがそれを示している。

 

 カンゾウはまず最も近い位置にいたブレアを標的にした。漆黒に染まった刀を凄まじい速度で彼女に叩きつける。ブレアはそれを何とか防御するものの、力負けしている状況だ。カンゾウの力は、完全にブレアを上回っている。


 キーン


 サドンが一瞬で距離を詰め、ブレアの援護に回った。サドンとブレアの挟撃、その凄まじい攻撃をカンゾウは凌いでいる。いや、逆に圧していると言っていい。サドンもブレアもギリギリの状態だ。


 あれをやるしか無い。魔力を使い切るあの技のチャンスは一度きりだ。回避されてしまえば二度目は無い。僕は伸びる剣を構え、そしてカンゾウに向かって突撃した。



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