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193 判明する妖刀の用途

 松明の()がリコッテの体に吸い込まれるように消えていく。彼女の体に青白いオーラのようなものが溢れ出てくる。リコッテは守護者の力を継承したのだ。


「これが守護者の力なのね。あまりに強すぎて、制御しきれるか少し心配だわ。」

「おめでとうございます、リコッテ様。」

「リコっち、凄いっす。」


 ソルトシールの守護者の力、それは単純に力が増すというものではない。僕はこの世界に来る前にその力が何であるかを見てしまった。プレイヤーにとって最悪とも言える力だ。


「ところでリコッテ様、そろそろわざと殺されようなどという考えは改めていただきたい。」


 侍擬きがリコッテに言った。僕達にもハッキリ聞こえるほどの大きな声だ。


「何を言っているのカンゾウ? 私は彼らを殺すつもりよ。」

「そう言って彼らの戦意を駆り立てるおつもりでも、ほら、そちらにいるアフタ殿にはまったく殺気がない。」

「ちょっと、私の作戦を台無しにするつもり?」

「最初から無理な計画です。」


 なんだ、この話の流れ? もしかしてリコッテは最初から僕に殺されるつもりで守護者を継承したということなのか? あのカンゾウという男は、それを僕達に教えようとしている?


「じゃあ、どうすればいいっていうの? どうにかなるのなら、私だって守護者なんて継承したくなかった。」

「では、お譲りいただけますか?」

「な・に・を?」


 次の瞬間起こった出来事は、僕の頭を真っ白にするのに十分だった。リコッテの脇腹にカンゾウの刀が突き刺さっていた。


「この妖刀龍悪(りょうあ)は、守護者の力を吸い取ることが出来るのですよ。リコッテ様はいらないとおっしゃるので、私がいただいておきましょう。せいぜい有効に活用させていただきますよ。」

「か・ん・ぞ・あ・な・た・・・。」


 リコッテは小さく声を吐き出した。彼女の腹部から刀を伝って赤いものが流れ出てくる。なんだこの光景は? あの赤いものって、えっと・・・なんだっけ? 僕はそれを認識することを拒んだ。


「カンちゃん、リコっちになんてことを!」

 カッチェがカンゾウに飛びかかった。しかしその直前で見えない壁のようなものに阻まれはじき飛ばされる。


「う・・・アッキー、なんで!」

 カッチェはヒーラーの女の方に向かって叫んだ。


「邪魔はしないで。あなたは見ていなさい。」

 どうやらカッチェは防御魔法に阻まれたようだ。


 いったい何が起こっている? リコッテが・・・刺された? 刺されたんだ!


「うぉぉぉぉ、来いゲキカラン!!!!」

 もはや後先を考えている余裕は無かった。僕はゲキカランを召喚し乗り込む。そしてカンゾウに向けて全力で突入した。ノンブレーキで突っ込むのは得意中の得意なのだ。


 突然の強化装甲による突撃。完全にカンゾウの不意を突くことに成功した。僕の全力の体当たりはカンゾウを巻き込み、そのまま競技場の壁に衝突する。自爆に近いが、カンゾウをリコッテから引きはがすことには成功した。生身でこれをくらったからには、さすがにタダでは済まないはずだ。


「スコヴィル、リコッテに回復ま・・・ぐぁぁぁぁ。」


 僕を乗せたゲキカランは、強烈なエネルギーの直撃を受けて吹き飛ばされた。目の前には無傷のカンゾウ、そして手にはどす黒い瘴気を纏った刀があった。


 カキーン


 金属音が響く。僕が攻撃を受けたのでは無い。そこにはサドンとカンゾウの激しい斬撃の応酬があった。どうやらサドンが援護に入ってくれたようだ。そしてスコヴィルはリコッテの所に到達していた。それを守るようにブレア。

 

 僕にはもったいない・・・本当に頼りになる仲間達だ。


「どうしたサドン、顔色が悪いぞ。まだあの時の傷が癒えていないのかな?」

「そんなものはとっくに治っているさ。」


 二人の戦い、サドンが圧されている? マズイ、僕は再びカンゾウに特攻を仕掛けた。


「!!!! さすがに二度は食らわん!」


 僕の攻撃はすんでの所で回避される。しかしその隙を逃さないサドン。畳みかけるように切りつける。ところがそれを危なげなく耐えきるカンゾウ。


「ふう、さすがに二対一。なかなか骨が折れる。まあ、そもそも守護者の力を吸収していなければ、アフタ殿の最初の一撃で終わっていたところ。リコッテ様がもっとも警戒すべきなのはアフタ殿、そうおっしゃっていたのも分かる。だが、まだ力が馴染んでいないだけ、本番はこれからだ!」


 力が馴染み始めたのか、カンゾウの体から測定されるエネルギーのグラフが右肩上がりだ。グラフの閾値がどんどん更新されていく。


「アフタ、君の隠し球は僕の想像を遙かに超えていたよ。本来ならもうちょっと驚きたいところなんだが、今はそれどころじゃ無い。カンゾウにクリティカルが全く発動しない。原因に思い当たるところは?」

「それがソルトシールの守護者の能力だと思う。守護者に対してのユニークスキルの影響を無効化するんだ。」


 AIギスケがプレイヤー対策に生み出したソルトシール守護者の能力。サドンのクリティカルでは守護者を切ることが出来ない。スコヴィルの魔法強化も、守護者にぶつけた時点で強化が無効にされるはずだ。ブレアのバーサーカーも同様だ。そして最強のチートスキル、クラスタプライオリティすら奴には通用しないだろう。


「そうか、つまり素の能力で倒せば問題ないと。いいだろう、相手をしてやろうじゃないか。アフタ、準備はいいかい?」


 サドンは僕の方を見て、楽しそうにニヤリと笑う。余裕を見せている場合じゃ無いだろう、そう思いつつも、そんなサドンを頼もしく思った。


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