191 登頂は遠慮したい都庁
休息をとった僕達は、ついに第十層に足を踏み入れた。
「これは驚いたな。」
「これって・・・。」
「まるで戻ってきたみたい。」
「・・・。」
僕は首が痛くなるほど上を向いている。なぜそうしているかと言えば、目の前に超高層ビルが建っているからだ。
「どうやらここは新宿のようだね。あれは都庁か。」
「あっちは公園ですね。」
どうやら第十層は東京が再現されているらしい。まさか最後にこう来るとは。
「本当に戻ってきたとかいうことは無いんですか?」
スコヴィルが辺りを眺めながら疑問を口にする。
「それは無いと思う。通行人の一人もいないなんてあり得ないよ。」
そう、確かに箱は新宿だけど、中身が決定的に不足していた。コミュ障の僕としては通行人がいない方がありがたい。しかし誰もいない高層ビル群の雰囲気は薄ら寒い。
「本当に誰もいませんね。」
「もし誰かいたとしても、それは魔物の可能性があるな。警戒は怠らないようにするべきだね。」
いつの間にかサドンは透視眼鏡をかけていた。もしその状態でスコヴィルの方を向いたら、ゲキカランを装備して一発殴ってやろう。そういえばゲキカランでの戦いは結局、強化装甲のポテンシャルを全く引き出せなかった。事もあろうに伸びる剣の力押しだ。どうしようも無い勝ち方だった。次に戦う時には、もう少しましにしたい。
「アフタ、僕達はどこを目指すべきだと思う?」
「・・・分からないよ。さすがにこれは途方に暮れるしか無い。」
僕達は手がかりを探してしばらく歩いてみた。魔物が出てくる気配は無い。そういえば東京のMXな番組でやっていた勇者なんとかという番組も、セカンドシーズンで都市を歩くシーンがあった気がする。
「あ、あそこに入ってみましょう。」
そこは超有名RPGを排出しているゲームメーカーのグッズショップだ。もし入ってしまおうものなら、危険な固有名詞のオンパレードになってしまう。
「スコヴィル、そこは無事元の世界に戻ってからにしよう。」
「えー、じゃあ約束ですよ。」
「私も連れて行って。」
まずい、約束にされてしまった。しかもスコヴィルとブレアの二人。あんな人がごった返しているところ・・・僕の精神力は耐えられるんだろうか?
「新宿御苑。」
ブレアがぽつりと呟いた。目的も無くとにかく歩いているうちに、新宿御苑の前まで来てしまったのだ。
「設定的には今は冬なのかな? 春になったらここで花見もいいな。」
「そうですね。お弁当を作ってお花見したいです。」
「ここはけっこう穴場。」
元の世界の景色に気が抜けているのか、みんな緩んだ話が多くなってきている。新宿御苑はアルコールの持ち込みが禁止されているので、比較的穏やかに花見を楽しむことが出来る。僕は高校時代に何を間違ったのか、ここの花見に誘われたことがある。結局ボッチで桜が舞うのを見ていただけに終わったけどね。まあそれが花見というものだ。
さて、リコッテ達はいったいどこにいるんだろう?




