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179 ケツから出そうな決断

 僕が部屋で一人作業をしていると扉がノックされた。「どうぞ」と応じる。そこに姿を見せたのは宿爺だった。


「アフタ君、ちょっといいかね。」

「はい、僕もいくつか聞きたいことがあったので。」


 探してもなかなか会えなかった宿爺は、向こうからやってきてくれた。


「アフタ君が何を聞きたいのかはだいたい分かる。だが、それを答えるのは専門家の方がよかろう。ここへ行くといい。」


 宿爺はそう言うと僕にメモを渡した。内容は街の簡単な地図だ。下の方まで目を通すと名前が書いてあった。レイアちゃんと。

 

「もしかしてあの建造物はレイアちゃんの指示ですか?」

「ふむ、その通り。この世界を救うための装置、彼女から聞いたのはそれだけでの。」


 アレがレイアちゃんの指示だとすると、もしかしたら僕の想像した通りの物かも知れない。なら、僕の計画も結末の部分を書き換えられる。僕は部屋を飛び出し、地図に書いてあった場所に向かった。


 その場所へ到着すると彼女はいた。団子をムシャムシャ食べながら、緑茶をすすっていた。なんだろう、この台無し感は?


「ずいぶんと急いで来たわね。」

「ええ、アレがなんなのか気が気じゃないので。」

「みたらし団子よ。」

「・・・。」

「もう、少しはノリ突っ込みを覚えなさい。ギスケの突っ込みは的確だったわよ。」


 彼女は僕に落ち着けと言っているのだろうか? 確かにここまで走ってきたから息も乱れている。よし、深呼吸だ。


「アレは外界からエネルギーを受け取る装置、それで合ってますか?」

「さすがね、その通りよ。私の元いた世界、あなたからすれば異世界になるわね。そこから巨大な魔力を送ってもらうことになっているの。」

「世界一つを存在させるためのエネルギーなんて持ってきたら、その世界が大変なことになるんじゃ?」

「それなら心配いらないわ。私の息子が向こうでとんでもない魔法を使ったおかげで、逆にそれを持ってこないと大変なことになっちゃうのよね。」

「エネルギー的には足りるんですか?」

「計算上、多少おつりが出る程度には。」


 その話を聞いて僕はホッとした。どうやら計画は良い方向へ修正することになる。


「ただ、とんでもない力を制御しなければいけないから、かなり危険だというのは言っておくわね。この部分は私がやる以上、もちろん責任は持つけど。この世界に虚数魔法の力を制御できる人材がもう一人ぐらいいれば格段に楽なんだけど・・・。私の息子を呼ぶのは無理だし一人で頑張るわ。それよりアフタ、あなたにはもっと重要な話があるの。」


 うん? これ以上の重要な話か。いったい何の件だろう?


「ダンジョン踏破は守護者を倒すことによって成立するわ。もっとハッキリ言うわね、守護者を殺さなければ至宝は手に入らない。至宝が無ければシステムの制御権は得られない。つまり、魔力があっても、それを世界の具現化に使えないの。あなたに守護者が殺せる?」


 彼女のその言葉に、僕は鈍器で殴られたような衝撃を感じた。守護者を倒さなければならない、それは僕も理解していた。倒すイコール殺す、それを考えるのをずっと僕は避けていたのだ。そして救いを求めるようにレイアちゃんの顔を見る。


「そんな顔をしても駄目よ。この件に関して例外は無いわ。守護者を殺さなければ世界を救うことも、あなたの世界の人たちを帰すことも出来ないの。裏技は無いわよ。」

「他に方法が・・・。」

「無いわ。」


 レイアちゃんは僕の希望的観測をバッサリと切り捨てる。この世界を救うことは可能になった。みんなも元の世界に戻れる。ただ一人、犠牲なる者がいれば良いのだ。そう・・・リコッテを殺しさえすれば。



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