176 時計塔はほっとけない
「診察をお願いしてきました。外傷は無いんですが、精神ダメージが大きいみたいです。」
「ほう・・・。何があったのか教えてもらえるかな?」
僕はギルダインに事の顛末を話した。
「恐れ入った。既に第八層までクリアとは・・・。」
ギルダインは感嘆の声を上げた。
「仲間が強かったからです。」
「いや、君がいないと攻略不能だっただろう。今、ハートを鷲掴みにされている気分だ。」
ギルダインは冗談を言ったのだろうか? ハートを鷲掴みの意味がイマイチ理解できなかった。
「えっと、話は変わるんですが、時計塔の周りのアレがなんだか分かりますか?」
「何であるかは分からないな。だが、宿屋の主人が作り始めたというのは知っている。今までため込んだ資金をつぎ込んで、地上からも労働者や資材を入れているようだ。逆に君の方こそ、アレがなんなのか分かるのでは無いかな?」
「巨大なアンテナのように見えます。」
「アンテナ?」
「流れてきたものを受け取るための装置です。」
「受け取る・・・か。」
ギルダインはしばらく考える素振りをしていた。そこへ治療院の係の人が僕を呼びにやってきた。どうやら診察が終わったようだ。
診察結果を聞く僕とブレア。結論として治療不能。一時的な錯乱なので、自然に治るのを待つしか無いと言うことだった。治療できないので入院も無理だという。仕方なくサドンとスコヴィルは宿屋で安静にしてもらう。ベッドの上に寝かせたら、二人ともブツブツ何か言ってはいるけれど大人しくはしているようだ。
ついでに宿爺にあのアンテナのような物について聞こうと思っていたら、宿屋の受付は別の従業員が担当していた。どうやら忙しく飛び回っているらしい。
ブレアはしばらく治療院でギデアに付き添うようだ。サドンとスコヴィルがあの調子ではしばらくダンジョン探索はお預けにするしか無い。ということで僕もしばらくは暇になる。
僕は時計塔の近くへ行ってみた。遠くから見たときは巨大なアンテナのみに目が行ってしまったけれど、近くで見るとそれ以外にも色々な物が作られている。よく見ると昔僕が作った櫓もそこにあった。なにやら色々な物が繋がっている。どうやら魔術的な要素が絡んでいそうな感じだ。
「親方、久しぶり!」
突然声をかけられた。僕を親方と呼んだのは筋肉ムキムキのガテン系の男だった。櫓建設時に一緒に働いた人物だ。
「あ、もしかして今回はこれを作ってるんですか?」
「ああ、給金が良くてな。親方も宿屋の爺さんに雇われたのか?」
「いや、ダンジョンから戻ったら凄いのが出来ていたから見に来ただけです。」
「へえ、親方はどこまで到達したんだ?」
「これから第九層の攻略に入るところなんだけど・・・。」
僕がそう言った瞬間、ガテン男の顔色が変わる。
「どひぃぃぃぇぇぇぇぇ!!!! マジかぁぁぁぁ?!!!!」
ガテン男は鼻水を拭きだして驚いている。そう言えば僕も昔は最深部到達パーティーを雲の上の人だと考えていたことを思い出した。
「ええっとメンバーが強いおかげです。今のパーティーメンバーがブレア、サドン、スコヴィルで僕はおまけです。」
「ぶひぃぃぃぇぇぇぇ!!!! 最強メンバーそろい踏みだぁぁぁ!!!!」
剣聖ブレアは有名だろうけど、サドンとスコヴィルはどこまで名が通っているんだろう? スコヴィルは一定の知名度があった気がする。
「スゲぇ。親方はこんなところで油を売っている人じゃ無いな。そういえば宿屋の爺さんの話だと、今作っているアレはダンジョン攻略に一役買うらしい。もしかしたら親方の役に立つかも知れない。」
「具体的に何に使うかは?」
「俺、そういうの苦手なんだ。ガハハハハ。」
まあ、そうだよね。宿爺はどこへ行ったんだろう?




