172 知ったが為の尻餅
僕とサドンは光の帯に拘束され、そしてお約束、偽物がおまけでセットになっている。僕は自分の偽物を観察した。うわぁ、弱そう。
「由美、僕が本物なのは分かるだろ。さあ、昔みたいに手を取って、一緒に進もうじゃないか。」
「偽者め、気安く妹に話しかけるな。僕こそが本物さ。由美、こっちへ!」
二人のサドンがそれぞれブレアに語りかけた。どうやら本名は由美と言うらしい。どちらが本物か、当然僕も分からない。ブレアは無表情のまま二人のサドンの方へ近づいていく。そして片方の手を取った。
『正解!』
おお、凄い。さすがに妹だけあって、兄がどちらかなんて簡単に分かるものなんだな。僕は感心した。
「チッ。」
え? ブレアから聞こえたのは舌打ち?
「さすがは我が妹。やっぱり僕たちは強い絆で結ばれているんだね!」
「50%の確率で外れを引いたわ。」
ブレアがボソリとつぶやく。まさか・・・。
「由美、冗談はそのくらいにして。」
「由美って誰のこと? 私はブレア。変な名前で呼ばないで。」
「え、ゆ・・・。」
ブレアに睨まれるサドン。そのままフラフラとして尻餅をつく。
「ボクノイモウトガハンコウキ? カワイイイモウトガ・・・。」
サドンが放心状態となった。その隣に発狂中のスコヴィル。第八層のボス部屋は地獄絵図と化した。マズイ、正解の僕は誰が選ぶんだ?
いや待てよ。ルール上、正解を選ぶのは誰でも良いんだよね。つまり本人であっても。そうだ、自分の手を自分で掴めば良いんじゃないか? そう思った僕は、自分の手を掴もうとしてみた。・・・駄目だった。光の帯の拘束は、腕の自由を奪っていた。
「大丈夫アフタ、私が当ててあげる。」
ニッコリと微笑むブレア。何故だか、背中から汗が出るのを感じる。ブレアとは元の世界でもこっちでも、それほど面識があるわけでは無い。いったいどうやって見分けるつもりなんだろう?
「まずはキスをして反応をみる。」
そう言ってブレアは近づいてきた。え? ちょっと待って! 僕は助けを求めるようにサドンの方を見た。サドンは真っ白になったと表現すべきだろうか、完全に魂が抜けたような状態で床に転がっている。今度はスコヴィルの方を見た。彼女は床に手をついて「ウフフフフフ」と笑っている。そんな馬鹿な!
「ブレア、そういうのは恋人同士がするもので、こういう場ではいくら何でも!」
アフタAが言った。
「・・・。」
アフタBは無言だ。
そんな反応を楽しむようにブレアが近づいてくる。そしてアフタAに顔を近づける。
「ブレア正気に戻って。ほら、サドンがそこにいるし、駄目だ!」
「キスぐらいで大げさ。」
今度はアフタBに顔を近づけるブレア。
「・・・。」
「そんな、青くなって震えなくても・・・。ちょっと傷ついた。」
そしてブレアはアフタBの手を取った。
『正解!』
見事本物を当てたブレアは、僕の震える手を強く握った。女性免疫ゼロの僕にブレアを説得するような余裕など無い。今回の偽物も上辺を真似ることしか出来なかったのだ。
「今度は私がアフタを守る! だから安心して。」
ブレアが力強く言った。
第八層クリアと共に、僕にヒロインフラグが立った瞬間だった。




