168 炎上の援助
「本当にウザいの。いつもいつもいっつも私の邪魔ばかり。炎上騒動だって、元はといえば兄が調子に乗っていたのがいけないのよ!」
荒れるブレア。君の兄さんの苦情の受付窓口は、少なくともここじゃ無いと思う。しかし僕がそんなことを言えるはずも無く、ひたすらにブレアの愚痴を聞く羽目になった。そんな時、救いの神が現れた。スコヴィルだ。
「食事が出来上がりましたよ。何を話してたんですか?」
「第八層の攻略に関してよ。まだまだ油断できない。」
「はい、そうですね。でもその前にしっかり栄養補給です。」
いつものブレアに戻っていた。そしてその変化に何も気づかないスコヴィル。僕は知らなくて良い秘密を抱えてしまった気がする。
リビングに行くとナイフやフォーク、皿などがセッティングされていた。そしてサドンが腕によりをかけた料理が振る舞われる。塩漬け肉、サラダ、スープ、魚料理、肉料理。これは、どこかのレストランのコース料理か?
「おいしいですね。」
スコヴィルがサドンの料理に舌鼓を打っている。片やブレアは黙々と料理を口に運んでいた。
「これってこの世界でのスキル? それとも・・・。」
「元の世界でも料理は得意だったのさ。レストランでアルバイトをしたときにね。そこのシェフが女性で、本当に色々教えてもらったよ。」
僕の質問にサドンから追加情報が付随して返ってきた。何を色々教えてもらったのかは問わない方が良いだろう。
「ブレアは何か好きな食べ物はあるのかい?」
サドンがブレアに話しかけている。僕は『平常心』と心の中で唱え、素数を順番に数えた。
「栄養が補給できればなんでも。」
「そうか、いっぱい作ったから遠慮無く食べてくれ。」
ブレアはサドンにいつも通り応対する。しかし真実を知ってしまった今、このやりとりが胃にダメージを与えるのは致し方ない。
「アフタ、口には合っているかい?」
「想像以上においしくてビックリしてるよ。」
僕はさっきの話を気取られないように、サドンの料理を口に放り込んでいく。実はさっきから味を感じない。
「アフタさんの玉子焼きもおいしいですよ。」
何のフォローかスコヴィルが僕に言った。
「それで第八層のマップは完成しそうなのかい?」
「それについてはもう少しで何とかなると思う。僕自身の作業は終わっているから、後は自動で進むのを待つだけだよ。」
「さすがアフタ、僕が見込んだだけのことはある。妹が見つかったら、アフタになら紹介しても良いな。」
「ぐ、げふぉ。すみません、のどに詰まらせたみたい。」
「わ、ブレア、大丈夫ですか? はい、水です。」
何だこの状況? 大丈夫なのか、このパーティ?
そして食事が終わる。美味しかったはずの食事の記憶は、何故かほとんど残っていなかった。そうしている間に、広域マップが完成した。さあ、ようやく第八層の攻略開始だ。
僕たちはマップを確認しつつ、複雑なテレポーターの迷宮を進んでいく。複雑ではあるのだけれど、正解の道は実は一本しか無い。僕たちはその道をひたすら進む。すると大きな広間のような場所に出た。チェックポイント的な場所だろうか?
「気をつけて、魔物がいる。」
ブレアが警戒を促す。
サドンは剣に手をかけ、スコヴィルは魔法の準備に入る。僕はとりあえず直立不動の構えをとった。つまり棒立ちだ。
この層の魔物は・・・ポリゴンライン、三角形の線の塊だった。中身は完全に透けている。そうなると核はいったいどこにあるんだろう? それが三匹、いや五匹、十匹?! やばい、どんどん増えてる。
こうして正体不明な魔物との戦闘が始まった。




