162 ショックの後の心臓移植
僕は箱庭を出し、みんなを安全な場所に移動させる。もちろん剣聖ブレアのパーティーも一緒だ。
聖女マリエルに応急処置を受けていた武王ギデアは、箱庭内のベッドの上で本格的な治療が始まる。マリエルは何かアイテムを取り出して、それをギデアの心臓に添えた。そして魔力を注ぎ込んでいる。
「それで助かるのかな?」
サドンがマリエルに話しかける。しかし集中して答えられないのかマリエルからの返事は無かった。
「五分五分だ。あれは失った体の一部を取り戻すためのもの。だが手や足ならともかく、心の臓は前例が無い。」
天魔ギルダインが代わりに答えた。どうやらギデアは心臓を貫かれていたらしい。僕が駆けつけたときには既に事が終わった後だったのだ。
「私のせいよ。怪我をさせないように確保しようと手加減したせいで。私は見誤ってしまった。そういうことが出来る相手ではなかったのに。」
悲痛な表情を浮かべるブレア。
「油断なら私もしていた。あの少女の魔法さえ防げば大した相手ではないと。ブレアだけのせいでは無い。今はギデアの生命力とマリエルの回復の力を信じるのみだ。」
ギルダインは表情を変えずに冷静に言った。
僕は目の前が真っ暗になるのを感じた。リコッテがあんな暴挙に出たのは僕のせいだ。アレを渡すにしても、直接手渡すべきだった。今回は逃げないって思っていたのに、結局いつも通り僕は逃げたのだ。
「私達に出来ることはありませんか?」
スコヴィルがブレアに話しかけた。
「安全な場所を提供してもらっているだけで十分です。なんと感謝すれば良いか。」
ブレアのその言葉が、刃物でえぐられるように僕の心に刺さる。
「今、ギデアに対して我々に出来ることは祈ることぐらい。そしてこれからのことを考えるなら確認しておきたいことがある。プレイヤーとはなんだ?」
天魔ギルダインが疑問を口にする。その言葉にブレアは悲しい表情となった。
「ごめんなさい。こんな時だからこそ、全てを話すべきね。」
「事情は僕から話します。」
僕はせめてもの罪滅ぼしに真実を語ることにした。
この世界の成り立ち、僕が作ったAI、システムの稼働状況、そして守護者。
「なるほど。こうなると私は誰の味方をして良いものやら。君たちが自分の世界へ帰還するというのは、すなわちこの世界の破滅を意味するわけだな。少なくとも私やマリエル、そしてギデアもプレイヤーでは無い。」
ギルダインは表情を変えず、淡々と状況を口に出す。
「この世界を維持しつつ、プレイヤーを帰還させることは可能かも知れません。」
僕は言った。
「ほう、この世界の創造主の一人の発言、重く受け止めるべきだと思うが、詳しく説明してもらえるか。」
「まだ・・・話せません。」
「何故?」
「あなたが味方になると決まったわけでは無いからです。」
僕がそういった瞬間、今まで無表情だったギルダインが豹変する。
「ふっはっはっは、そりゃそうか! これは一本とられた。ぶははははは。」
突然、今にも転げ出しそうなぐらい笑い始める。
「失礼。笑っている場合では無いな。」
頭がおかしくなったのかと思いきや、一瞬で冷静な状態に戻った。天魔ギルダイン、けっこう怖い人物だ。話の続きをしようとしたその時、別の場所から声がかかる。
「みなさん、ギデアの治療は一段落つきました。ただしまだ予断を許す状況ではありません。残りの治療は上に戻る必要があります。」
マリエルが心臓移植とも言うべき離れ業をやってのけたようだ。
「・・・良かった。」
泣きそうな顔をするブレア。とにかくギデアの命は紙一重で救われた。




