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160 砦にいるのは一人では無い

「エスフェリア・・・。」

「何ですか?」

「お前、暇なのか?」

「いいえ、国務が山積していて大忙しですよ。」

「だったら何で、目が覚めたらお前が俺の顔をのぞき込んでいるんだ?」

「休憩です。息抜きは必要ですから。」


 俺は自分のベッドから起き上がった。ここはオブリエン帝国の首都エンプティモ、宮廷内にある俺の部屋だ。


「こっちの様子に何か変わったことはあるか?」

「それなんですが、それなりに大変なことが起きてしまいました。」

「なんだ、オキスがまた何かやらかしたのか?」

「当たりです。さすが魔神ギスケ、素晴らしいカンですね。」

「いや・・・マジかよ。」

「あんな涙目のエルシアは初めて見ました。」


 俺は状況を確認した。魔領へ向かったオキス達が国境のグラビデン砦でなにやら凄まじい魔法を使ったらしい。そのせいで魔領側の地形が変わってしまったというのだ。砦の方には被害は出ていないらしいが、空間がねじ曲がる怪現象が起こっているらしい。いったい何の魔法だよ? 魔王の息子とはいえ、少しは常識をわきまえろ。


 とにかく詳細を確認しておかなければ。俺はオキスお手製の通信機で連絡をとった。


「いったいどういう魔術回路を編んだんだ?全く想像も付かないぜ。」

 俺はオキスに今回使用した魔法の説明を求めた。魔王アストレイアの息子オキス。俺は転移者で奴は転生者だ。オキスは魔王の息子だけあって、反則的な資質を身に宿している。しかも元の世界の科学技術を次々に武器転用しているチート野郎だ。

 

「以前戦った魔術師に闇魔法を使った人がいて、それを真似してみたんだ。イマイチ再現できなかったから、精神魔法に使う虚数演算を組み込んでみた。それを有りっ丈の魔力で大量生成した感じだよ。」


「虚数演算・・・? 回路構成は?」

 俺は構成された魔術回路の式を聞かされてゾッとした。俺の作れる疑似魔術回路では再現できないものだ。いや、出来たとしてもそんな物を作ろうとは思わないだろう。

 

「馬鹿か・・・。アンタ、世界を滅ぼすつもりか?」 

 つい、口から漏れたが本心以外の何物でも無い。


「そんなにマズかった?」

 照れ笑いっぽい物を浮かべるオキス。近くにいたら殴ってるレベルだ。


「あれは正確には闇魔法じゃ無い。闇に見えるのは、世界の規則がぶっ壊れているからだ。光が反射するという規則が書き換えられているから闇に見える。しかし実際は法則や因果をぶっ壊す無茶苦茶な魔法だ。量子が偏った変動を起こして飛び散るのをイメージしてくれ。確率が意味をなさなくなる。」


 オキスは「へぇそうなの?」と言わんばかりにキョトンとしている。


「ハッキリ言っておく。その魔法は二度と使うな。すでに使った一発でさえ、未だに安全とは言えない。何が起こるか全く分からない。」


 俺は虚数関数を攻撃の魔術回路に組み込むことの危険性を強調した。


「分かった。あんなことになるなら、もう使わないことにするよ。」


「そうしてくれ。虚数演算は俺の魔法陣じゃ再現できない。もし暴走でもしたら止めようが無いのは肝に銘じてくれ。」

「ギスケでも無理なの?」

「ああ、俺にも無理なものがあるのを始めて知ったよ。今までは、やろうとしたものは全て再現できたからな。それとお前の闇魔法は、絶対誰にも教えるな。教えて使えるような奴は・・・魔王種ぐらいか。敵があれを使ってきたらどうなるか、考えれば分かるだろ?」


 こうしてオキスとの通信は終わった。寝起き早々、右ストレートをたたき込まれるこの感覚。親子揃って何やってるんだ、こん畜生! 転移してきて今に至るまで散々苦労してきた記憶しか無い。しかしそれは違っていた。


 俺の苦労は始まったばかりだ!


「魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された」の162話と繋がります

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