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159 身を挺しての停止

「ギスケ、来てたの? ちょうどいいタイミングね。」

「アストレイア、お前、この状況はどうするんだよ。」


 俺は声の主に文句を言った。全ての元凶、魔王アストレイアの精神体だ。体はとっくの昔に死んでいる。しかし死んでいようが関係ない。責任の分だけ働いてもらう。


「レイアちゃんと呼んでいってるでしょ?」

「知るか。」

「もう・・・しょうがないわね。私はここの管理なんて仕事に含まれてないわよ。それにどのみち、ここのユニットじゃ焼け石に水よ。」

「こっちはまあいい。で、あの件は?」

「完了しているわよ。これでベルグレストはソルトシールの下層には手を出せない。」

「後はボロディア待ちか。」

「それと、AIを作った子と会ったわよ。ここのスケジュールを書き換えたのもその子よ。」

「システムAIに俺の名前を付けた奴か。なるほどな、ならこのぐらいのことはやるだろう。」


 この世界のシステムを停止させるために、俺は色々な手を打ってきた。完了まで残りわずかだ。


「ところで確認なんだが。」

「何?」

「この世界のシステムを停止させたら、俺の故郷の人間の魂は元の体に戻るんだよな?」

「たぶん。」

「たぶんって、無責任すぎるだろ。」

「そんなことを言われても、前例が無いし断言は出来ないわよ。それとも無責任に絶対大丈夫だとか言って欲しいの?」


 アストレイアは俺に呆れた顔を向ける。誰のせいでこうなったんだという俺の怒りはどこに向けようか?


「もう一つ。この世界のシステムを停止させずに、安全に魂を送還する方法は?」

「この世界に大量の魔力を注ぎ込んで、システムを安定させるしか無いわね。その上でAIを説得する。でも、現実的じゃ無いわよ。」

「必要な魔力の量は?」

「魔領に埋蔵されている魔晶石の総量の半分くらいね。向こうに戻って掘ってくる?」

「っく、十年ぐらいで済むのか?」

「さあ、下手をすると千年単位ね。ベルグレストがやったように強引に魔力を引き抜く儀式を行えばもっと早く終わるわよ。」

「エスフェリアの方の世界が滅ぶ。冗談は成仏してから頼む。」

「私の体が元に戻って、無限魔力スキルが使えたら魔晶石なんてなくても全部解決なんだけど、無い物ねだりをしても仕方ないわね。」

「生きていた時に、どれだけ人様に迷惑を積み重ねたんだよ?」

「あら? そのおかげであなたは命が助かったんじゃない。」

「俺の命一つで、世界を二つ救えっていうのは、全然等価じゃない気がするがな。」

「世の中に等価交換なんて物は無いのよ。価値なんて人それぞれ。それこそ価値観の違いで全然変わるんだから。本当に等価交換なんてしてたら商売なんて成り立たないでしょ。」

「その論理の中に、ぼったくり感満載の空気を感じるのは気のせいか?」


 さすがに何百年も生きてきたババア魔王、一筋縄ではいかない。


「それよりも、私の息子は元気にしてる?」

「オキスか? ああ、元気どころかだいぶ強くなったぜ。これから帝国軍とともに魔領を押さえ込みに行くところだ。」

「そう。神に勝てるのはあの子だけだもの。私はこっちから見守るのみね。それとあの子が散らかした後はよろしくね。」

「何でいつも俺は後始末係なんだよ?」

「後始末ついでに三つ目の世界を救いたくなったら、魔力の供給方法を考える事ね。」

「無理言うな。俺にはここを救う義理は無い。」


 結局この世界は終わりにするしか方法は無い。もともと存在しなかった場所なのだ。プレイヤーの魂を元の世界に戻してそれで解決だ。

 

 その後、俺はアストレイアと別れボロディアと合流し、進捗状況を確認した。七大ダンジョンのうち、過去分を含め既に五つまで攻略が完了していた。残りは二つだ。

 

 さらに俺はAIギスケを押さえ込むためのプログラムのメンテナンスを行った。厄介なのは中に取り込まれている別のAIだ。こいつがなりふり構わず必死にシステム停止を阻止しようとしている。強引に排除しようとすれば、プレイヤーの魂を戻す前に、この世界が崩壊する危険性がある。事実上、人質に取られている状態だ。しかし全ダンジョンの至宝を集めれば、システムの完全な制御権をボロディアの元に取り返すことが出来る。


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