153 ムラのある村
お爺ちゃんは私の顔を見て、弱々しく手を差し出した。私はその手を握る。
「お爺ちゃん・・・。どうしてこんなことに。」
お爺ちゃんの手は、以前よりもシワが増え骨張っていた。
「どうしてもなにも、リコッテがやったことの結果だよ。」
後ろから声が聞こえた。アフタの声だ。
「村の外とほとんど交流の無かった村人が、急激な変化に耐えられると思ったの? それに外の人たちは善意の人間じゃ無い。自分の利益のために、邪魔なものの排除ぐらい平気でやるよ。そういう僕もけっこう騙されたけどさ。」
私はアフタの方を振り返った。彼の顔をよく見ると、にやりと口元が緩んでいた。
「誰なの? あなたは私の知っているアフタじゃないわ。」
「へえ、リコッテは僕の何を知ってると言うんだい?」
「小さい頃から一緒に過ごして色々な彼を見てきた。少なくともそんな笑い方をするアフタを私は知らない!」
「それは君が見てきたアフタの一端に過ぎないよ。」
アフタの顔をした何者かは、私に呆れたというような視線を向ける。
「リコッテや。」
「お爺ちゃん、どうしたの?」
お爺ちゃんが私に呼びかけた。握っている手に力がこもる。
「リコッテ、後悔をしてはならん。そもそもこの村はお前の為にあったのだ。だからワシらは役割を終えたに過ぎん。本当は自分の孫にこんな役目を負わせたくは無かった。」
「何を・・・。」
「お前は自分の使命を・・・はた・せ。」
突然、握っている手に力が失われていく。
「お爺ちゃん、お爺ちゃん!!!」
何度呼びかけても、返る反応は無かった。私は呼吸を確認する。空気の流れが何も感じられなかった。
「そんな、何で・・・そんな。」
私は涙が止まらなかった。動かなくなったお爺ちゃんにすがりついて泣いた。
「リコッテ、使命はどうするの?」
「使命ってなんなのよ!」
アフタの顔をしている誰かに私は叫んだ。
「この世界を守る使命だよ。もうすぐアフタがこの世界を壊す。そうしたら終わりさ。この世界は無かったことになる。元の状態に還るというのかな?」
「何を言っているのかさっぱり分からないわ。」
いったいこの偽物アフタは何を言っているんだろう?
「知りたいなら、それを身につければいい。今、君が握っているものを。」
私は自分の手を確認する。さっきまでお爺ちゃんの手を握っていたはずなのに、今は違う物を掴んでいる。これは・・・アフタから貰ったパンティ。
「それはリコリースの遺品、それで全てが分かる。全てを知った後、リコッテがどうするかは自由だ。リコリースのように全てを無かったことにして逃げる・・・という選択肢もある。ただ、今回の残り時間はそうありはしない。」
「これを身につければ全てが分かるの?」
「そうだね、全てが分かる。君の大好きなアフタがどういう存在なのかも。」
偽アフタがニヤニヤとしながら言う。
「そう・・・。ねえ、一つお願いがあるんだけど。」
「なんだい?」
「あなたのその汚くニヤついた顔、大っ嫌いだから消えてくれない?」
そう言うと、偽アフタの姿が急におぼろげになっていく。そして消えた。
私は決断しなければならない。




