146 雪崩に埋まっているのは、なあ誰だ?
ゴゴゴゴゴゴォォォォ!!!!
雪崩の第一波が私達の上を通り過ぎていく。目の前にあるのは動きを止めて固まった雪だ。雪に囲まれすでに真っ暗な状態となっている。そんな中、雪が見えるのはサルミアキがランプを取り出したからだ。
私の使った闇魔法は運動エネルギーを奪うものだ。そして運動エネルギーを奪われた雪は、その場に膠着する。結果として後ろから来たさらなる雪にをせき止め、より密度を上げて固まっていく。もちろん後から来た雪の運動エネルギーも奪っていく。私はそれが安定するまで闇魔法を生み出すのに専念した。
正面からの雪崩はうまく受け止めることができた。しかし問題があった。中盤から後ろがガラ空きだということだ。上を越えていった雪崩が一部後ろの方を埋めていく。雪崩は速度があるので、ある程度は後続へ流れていってくれるのだけれど、それでも空いている部分への侵入が深刻だった。
「うぉぉぉぉ!!! はぁぁぁ!!!!」
問題点は・・・大丈夫だったようだ。カンゾウが気合いでなんとかした。いや、文字通り気合いだ。流れ込んでくる雪を気合いで弾き飛ばしなんとかしたのだ。
私達は雪の中に孤立したような状態となった。見方によっては生き埋めと言っていいのかもしれないけれど、空間が確保されているので命の危険は無い。上の方ではまだ雪崩の音が響いている。
「どうやらやり過ごせたみたいね。」
そろそろ闇魔法を止めても問題ないだろう。
「そのようですな。」
「雪の中は怖いっす。早く上に行くっす。」
「待ちなさい。雪崩が沈静化するまでもう少し待つべきですよ。」
サルミアキがカッチェに言う。確かにもう少し待った方がいいかもしれない。
「ところでどうやって上まで戻るの? 光魔砲で一気にトンネルを掘る?」
「少しずつ雪を切り崩していきましょう。強力な魔法では崩れてしまう危険があります。」
せっかく助かったのに戻る最中に埋まってしまうのは困る。穴掘りはカンゾウに任せよう。
「あ、雪の中、けっこう暖かいっす。」
ようやく落ち着きを取り戻したカッチェが言った。私はアフタと一緒にかまくらを作ったことを思い出した。雪には保温効果があるから、外よりも暖かいんだと言っていた気がする。冷たい雪の保温効果っていったい何なんだろう?
特に何もすることがないので食事と休息をとることにした。ここなら魔物に襲われることも無いだろう。変なところで足止めを受けたけれど、今までに比べれば十分に先に進めている。
「ところでカンゾウ、顔色がどんどん悪くなっているけど、本当に大丈夫なの?」
「問題ありません。気合いで雪を吹き飛ばせる程度に力が有り余っております。今ならサドンとも十分に殺れそうな気がします。」
確かに力は凄みを増している気がする。しかしあの胡散臭いおじさんから貰った刀が、何か悪影響を与えているんじゃないかという妙な予感がする。サルミアキはそれについては何も言わない。彼女が大丈夫だと判断したのなら、私が余計なことを言うべきではない・・・のだろう。
「そういえば前回のボス部屋の宝箱は転移水晶が複数入っていたのよね?」
「そうっす。現在は創世の街、第五層入り口に転移先を設定してあるっす。」
「もう一つを第五層のボス部屋前に設定しておけば、創世の街に帰還してもすぐに戻ってこられるわね。」
これだけ寒いとアフタの作った浴場が恋しくなる。このまま第五層のボスを倒すにしても、その後はいったん街で休息をとりたいところだ。アフタは今、どこまで進んだのだろう? もしかして生き埋めになったりしていないだろうか? いや、街で聞いたアフタの話を考える限り、突拍子もない方法で先に進んでいる可能性がある。彼のやることは、すでに私が想像できる範疇にない。
「リコッテ様、第五層のボス戦からは我々も完全に参加します。敵の攻撃力も上がってきておりますゆえ。」
「分かったわ。確かに敵がだいぶ強くなってきているのは分かる。」
今回戦う第五層のボスの名前はグラキエ。熱い氷を使うという魔物。そして魔法攻撃でしかダメージを与えることができないという。ならば私の力で光の塵と変えるのみだ。




