142 食う気の無い空気
次の日、出来上がった鏡をカンゾウが受け取ってきた。それは手の平で覆える程度の大きさだった。こんな綺麗な鏡は初めて見た。そもそも村にいた頃は鏡なんて無かったので、タライの水で身だしなみを確認していたのだ。
「凄い綺麗な鏡だけど、これで敵の攻撃が防げるの?」
「リコッテ様、それを翳してみてください。」
私は言われた通り鏡を翳す。すると目の前に大きな鏡が出現した。
「なるほど、だから魔法の鏡なのね。」
「これでレーザーと言われる光の攻撃を跳ね返す事が出来ます。」
こうして準備を整えた私達は第四層を目指した。
「カッチェって意外に色々役に立つわね。」
「照れるっす。褒め過ぎっす。」
私は感想を率直に口にした。褒めすぎと言うほど褒めていない気がするけど。今現在、カッチェの気配を消すスキルがパーティー全体にかかっている。効果はクリアした階層の魔物から察知されにくくなるというものだ。この力のおかげで、余計な戦闘をせずに先に進むことが出来る。
敵の発見や不意を突くというのも使える能力だ。気配を消して敵に近づくというのは、魔物だけで無く人間にも有効だ。対人戦になった時、敵にとっては驚異と言うしか無いだろう。格上のサドンに一撃入れられたのも、この力のおかげなのだ。
「その気配を消す能力は、私にも覚えられるの?」
「どうっすかね。分からないっす。でもコツは教えられるっすよ。」
私は移動中にそのコツというのを教わった。一番重要なのは、自分の心を周囲の物と一体化させること。そこから一歩発展すると、一体化しつつも意思を持って行動することが出来る。つまり動きつつ気配を消すことが出来るらしい。
私は最初の段階で詰んだ。どうやら向いていない。もしかしたらこれはアフタの方が適性があるのかも知れない。アフタは村にいた頃、私の追跡を振り切って姿を消すことがよくあった。実はすぐ目の前にいたのに気がつかなかったこともザラにある。本人は「どこにいても空気だったからなあ」とか、よく分からないことを言っていた。空気になるというのが重要なんだろうか?
そして第四層に到着した。早々に裏に回りボス部屋に到着する。さあ、第四層のボス、マキシアムとの戦いだ。
準備部屋を通り抜けマキシアムと対面する。ピカピカと色々光っている。それは夜空の星が間近に迫っているようだ。それを見てまたアフタのことを思い出す。「この世界の星も恒星なのかな?」とか言っていた気がする。彼は星は全て太陽と同じ種類の物だという。昼間を照らす太陽と夜空の星が同じわけが無いのに、いったい何の話だったんだろうか?
「リコッテ様、わたくしが鏡を使います。その間に準備を。」
サルミアキが魔法の鏡を翳し防御態勢を整えた。いつの間にかカッチェは姿を消している。カンゾウは私の隣で臨戦態勢はとっているものの、ここも基本的には私が攻撃する。
私が魔法の準備に入ると、マキシアムが攻撃態勢に入った。レーザーと言われる熱攻撃だ。私の使う光魔法とは内容が違う。光魔法は飽和状態に増幅された魔力の塊だ。飽和というのがなんなのかは知らないけれど、とにかく魔力の塊になった状態を指すらしい。
レーザー攻撃はサルミアキの鏡によって跳ね返されていく。敵は自分の攻撃によってダメージを受けている状態になっている。私は光魔法で追撃をかける。魔法を放つとき、レーザー攻撃を受けないように光魔法を空中で屈折させている。こうすれば自分の身体を鏡の防御範囲から出なくても攻撃できるのだ。光魔法を何も無いところで屈折させるのは伝説級の難易度らしいのだけれど、私にとっては大して難しくも無いことだった。
私の魔法によってマキシアムの表面の金属がどんどん消滅していく。屈折を使わずの全力の光魔法であれば、1秒か2秒あれば貫通させることも出来る。しかし今回は安全策だ。
するとマキシアムのレーザー攻撃が一瞬止まった。そして何かが吐き出される。小さな球体が数え切れないほど出てきた。どうやら第二段階らしい。
私は魔法を闇属性に切り替える。杖を翳し、その先に闇を貯め込んでいく。私の魔力が闇に変換されてどんどん大きくなっていく。
そして十分に大きくなった闇魔法、私はそれを放った。




