136 傷口に気付く近頃
何なんだ、何なんだよ、この血は?
まさかボブゴブリンに切られた傷とかいうオチじゃ無いよな?
救急車を呼ぶべきか?
冷静になってみよう。
意識はハッキリしている。
背中の痛みは・・・ヒリヒリしている気がする。
腕は少し痺れている。
よし、とりあえず傷を確認しようか。
私は上半身裸になって逞しい裸体をさらした。
いや、嘘です、貧弱です。
脱衣所にある鏡で背中を確認する。
どす黒い赤に染まっていた。
あまりの状態に心臓の動きが激しさを増す。
よし、もう一度冷静になろうか。
普通こんなに出血していたら、こんなに悠長に立っていられないんじゃないか?
背中を触って確認してみたものの、どこが傷口なのか分からない。
どうするべきか?
そうだ、シャワーで血を流そう。
そして私は血を洗い流した。
鏡で再び背中を確認する。
傷口などどこにも無かった。
私はさっき脱いだ服を確認してみた。
どす黒い赤で染められている。
幻覚じゃ無い・・・よな。
ところが突然変化が起こった。
色が少しずつ薄まっている。
あまりにゆっくりと変化が起こっているので、気がつくのが遅れたけれど、確かに薄くなっている。
そしてとうとう血に染まった形跡が消えてしまった。
はぁ~、疲れてるのか?
うん、間違いなく疲れている。
そんなことは今更確認するまでも無いさ。
しかし血に染まった幻覚を見るなんて、薬中じゃないのだから勘弁して欲しいな。
今日は寝た方が良いらしい。
よし寝よう。
私はぐっすり眠った。
それからしばらくは何事も起こらず開発が進んだ。
気がつくと世界は勝手に広くなり、私一人ではとてもデバッグ不可能な状態に拡大していた。
ここから先はテスターが必要だ。
公式サイトを作り、テスト用のプログラムをダウンロード可能にした。
そしてサポート用掲示板の用意も行った。
少し宣伝すると、口コミで広まったようであっという間にユーザ数が1000を超えた。
サーバの負荷の心配があったものの、分散システムがきちんと機能しているらしく、スムーズにシステムが稼働している。
逆に怖くなってくるほどだ。
ゲームの評判も上々だ。
リアルでまるで本当に異世界に紛れ込んだとか、時々現実と区別が付かなくなるというような感想があった。
そこは自己責任で区別をつけてもらいたい。
ダンジョンの第二層以降が無理ゲーとかいう苦情もあった。
ご愁傷様、そこはAIが勝手に作った場所だ。
私はあずかり知らぬ、頑張って攻略して欲しい。
そんな内容のことをもう少しソフトにして書き込んだ。
ちなみに配布したプログラムには仕掛けがしてある。
ユーザのストレージ内のデータを解析して、アバターに特徴を持たせるシステムが組み込んである。
もちろん個人情報を悪用するつもりはない。
個人を特定出来るような情報はフィルターされるようになっている。
あくまでGISUKEで傾向を分析するだけの物だ。
とにかくゲームの動作テストは想像以上に上手くいっている。




