132 バイナリの解析は苦労が倍なり
『そのアカウントは既にログインされています』
画面にはそう表示されていた。さて、これはどう考えるべきだろう?
ログアウトに失敗してゾンビ状態(さすがに何日も経っているし、それは無いか)
サーバが落ちていて、その時に表示されるメッセージにこれが表示される(たまにあるんだよね、そういうゲーム)
誰かが不正ログインしている(僕も人のことが言えないけど)
風海がログインしていてゲームをしている(病院で寝てるしなあ)
ゲームの一時キャッシュの更新日付を見ると、彼女が意識不明で病院に運ばれる直前までゲームをしていたようだ。やっぱり関係しているのだろうか? 集められる情報はここまでのようだ。これ以上色々追跡すると、危険なBLデータとエンカウントしてしまいそうで怖い。僕はPCに保存されていたアカウントデータをUSBメモリにコピーした。
ちょうどその時、風海の父、僕の義兄が帰ってきた。彼には既に姉から連絡が行っているらしく、何か分かったことは無いか聞いてきた。僕は挙動不審ながらも調査中だと答えた。けれど「何か見つかったら必ず知らせます」と、その点だけはハッキリと答えた。
僕は家に帰り情報を収集した。すると昨日はそれほどでは無かった意識不明者の情報がネット上に溢れていた。騒ぎになり始めている。情報をまとめると、やはりほとんどがあのゲームをプレイしていた人達だったようだ。
僕はゲーム実行する。こうなったら実際にプレイしてみるしか無い。しかし新規ユーザの登録は停止されていたのだ。これでは確認する術が無い。
いや、手はある。僕はゲームのバイナリデータからサーバのアドレス情報を引き抜いた。これでサーバの所在は分かる。とにかくやれるだけやってみよう。
アドレスは複数ある。一つずつ試していこう。まずはポートスキャンをかけてみる。WEBとSSHとFTP、あとはデータベースのポートが開いているのが確認できた。ゲーム内で確認したアドレスなのに、ゲームクライアントから接続するサービスが存在しない。
とりあえずSSHで接続してみる。繋がった。とはいっても当然のごとく認証を超えなければ中には入れない。僕はボロディアから送られてきたIDとパスワードを入力してみた。これって不正アクセス禁止法でとっ捕まったりするのかな?
「うぉ、入れた!」
認証が通ってしまった。マズいことをしているという意識はある。しかし今は非常事態だ。とにかく中を確認しよう。
OSはUnix系のようだ。まずは動いているプロセスを確認してみる。なんか、見覚えのあるヤツがいる・・・。AIギスケのデータ収集プロセスだ。ということはデータベースの方は僕の知っている構造になっているのか。
僕はデータベースにアクセスしてみる。内部の構造を確認するとビンゴ。僕の知っているテーブルが並んでいる。具体的なデータを確認してみたところ、とんでもなく学習が進んでいた。AIギスケが超分散型に書き換えられている。動作端末ごとに振り分けられるAIギスケのIDが10万を超えていた。つまり10万台以上の端末でデータ収集が行われているということだ。
そして恐ろしい事実が判明する。たぶん僕のマシンもデータ収集対象になっている。僕は自分のPCのプロセスを確認する。
いた! 僕自身が作ったのとは別のAIギスケが動いている。
これってつまり、僕が持っているデータは既にAIギスケの学習対象になっていると言うことだ。とにかくヤバイ、プロセスを殺さないと。
もしかしてAIギスケはマルウエア化してる? たぶんゲームに仕掛けられていたんだ。データはインストール以降で抜き取られていたと考えるべきだろう。とんでもないトロイの木馬だ。
一応プロセスは殺して該当ブログラムを削除したけど、「時すでに遅し」だ。重要なデータは持って行かれた後。まあ、僕の持っているデータなんて、一部、人に見られたくない画像を除けば大した物ではない。内容? 大きな胸が好きなだけだよ。
調査を続けよう。僕は別のサーバへ接続してみる。どうやら今回はゲームサーバのようだ。プロセスを確認するとNoSQL系のデータベースが採用されている。リアルタイム処理に特化しているのだろう。分かる範囲でデータを引き出してみた。データ量が多すぎて、何が何のデータだか判別するのが難しい。
どうやらゲーム自体は今も動いているようだ。この騒ぎの中、開発者は何もコメントを出していない。というか一説によるとトンズラをはかったと言われている。しかしシステムはこの通り動作を続けているのだ。いったいどういう状況なんだろう?
構造がある程度把握できたので、試しに風海のアカウントを確認してみる。ログイン中で登録アバターが活動中だ。座標が動いている。誰かが操作していると言うことなのか? 固有情報を確認してみよう。
職業は魔術師、名前は・・・スコヴィル。




