表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/208

130 苦心する着信

 最近、姪の風海(かざみ)が補給物資を届けに来ない。食料は通販でまかなえるけれど、ゴミが溜まっていくのは困る。まあ彼女は受験生だし、そろそろ勉強に集中し始めたという所だろうか。しかし困ったな。そろそろ自分で捨てに行くか?


 部屋のゴミを市指定のゴミ袋に詰め込んでいく。夜間収集なのでそろそろ出しても問題ない時間だ。僕は玄関の扉に手をかけた。そして・・・開くのをやめた。まあ、また今度でいいや。ゴミ出しなんていつでも出来るんだ。しかし何故僕はこんなに汗をかいているんだろう? 部屋はそんなに暑くない。おかしいな。


 そんな時、僕の携帯の着信音が鳴る。珍しい。間違い電話だろうか? 電話も来たし、本格的にゴミ出しはまた今度だ。


 僕は携帯を手にとって着信元を確認する。姉からだった。風海の母親だ。僕は電話に出た。そしていつになく長電話になり、ようやく話を終える。


 姪の風海(かざみ)の意識不明が何日も続いており、既に入院しているという話だった。現時点で原因不明、検査では何も発見できなかったらしい。


 僕は姉からここへ来たときの風海の様子を色々と聞かれた。どうも風海は最近様子がおかしかったらしい。学校へ行かず、ほとんど家でゲームをしていたようなのだ。真面目な彼女が分別もつけられず学校に行かないとは考えにくい。姉の話だと、学校でイジメのようなものがあったらしいのだ。


 ここでの風海はいつも通りだった。気になる点があるとすれば、学校のことを聞いたときの違和感ぐらいだ。しかし僕は名探偵では無い。そんな微妙な示唆など分かるはずが無いのだ。


 姉の話通り学校でイジメがあったとしよう。それと意識不明・・・繋がる点は無い。何らかの薬物の服用だったら病院の検査で引っかかるはずだ。食事はきちんと取っていたらしいので、専門家でも何でも無い僕には、思いつく事が何も無かった。


 いや、待てよ。僕はPCで掲示板をチェックする。友達が意識不明になったという書き込みをどこかで見かけた気がする。全く気にも留めていなかった内容なので、いつどこでの書き込みなのかイマイチ思い出せない。ブラウザの履歴を確認しながら該当する書き込みを検索する。


 あった。えっとこれって・・・。


 今度は例のあのゲームの公式掲示板を確認する。そして中のスレッドを見て驚いた。このゲームをやっていて意識不明になった人が沢山出ているという書き込みだ。それに対する反応は・・・そういうデマを流すと捕まるよというようなものだった。


 デマ? 偶然?


 普通に考えて、ゲームをやっていて意識不明になるか? 長時間やり続けて心筋梗塞を起こして死んでしまうニュースは読んだ記憶がある。その他、激しい光の点滅によるテンカンの症状とかも事例はある。 テンカンは一時的に意識を失っても目が覚めないというのは考えにくい。元々なんらかの持病を持っていて、それが不意に症状として表れた?


 素人の僕が推理しても結論など出るはずは無い。風海の入院先は聞いている。今日はもう遅い。明日、お見舞いにいこう。お見舞いに行ってみたら、何事も無く目が覚めているかも知れない。たぶんそうなる。そうなるはずだ。


 そして僕は次の朝が来るのを待った。全く眠れない。何も手に付かない。ただひたすら時間が過ぎるのを待った。眠れないので何もせずただPCの前に座っている。そのまま時間がゆっくりと流れていく。


「あれ、メール?」

 PCがメールの受信を通知していた。僕はメールを開く。

「何だコレ?」


 差出人はボロディア。そこにはパスワードのような物が書かれていた。僕は無意識にそれをプリンターに印刷する。そしてデータは削除した。自分でも何故そんなことをしたのか分からない。とにかくボロディアのメールは紙に印字されている。


 ボロディア、例のゲームの制作者のハンドルネームだ。以前にも一度メールをもらっている。以前は僕のプログラムの使用許可を求めてきた内容だったんだけど、今回はいったい何なんだろう?


 今、僕は不安を感じている。ネットワークに接続されているPCに若干の恐怖感を抱いているからだ。何か恐ろしいことが起きている、何も根拠が無いはずなのにそれを確信している自分がいた。そしてそんな自分を誰かが見ている、振り返ったら誰かがいる、そんな妄想が頭の中をグルグル回る。


 風海のお見舞いに行ったら彼女の意識が戻っていて、そして笑い話で済む。全ては偶然で、今のメールも誤送信。僕は頭の中で何度もそのイメージを反芻する。そうでもしていないと、不安が我慢できずに叫び出してしまう。


 早く時間が過ぎて欲しい。僕は祈るように朝が来るのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ