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128 日当を出すニート

 寝落ちしていたんだろうか? そう、僕はプログラムを組んでいる途中だった。今作っているのは、画像や音声を効率的に処理するための学習機能を持ったものだ。


 そもそもコレを作り始めたのは、某大手のGitサーバで演算ライブラリを見かけてからだ。興味本位で使ってみたら、欲しい機能が一通り揃っていてとても使いやすいものだった。しかも信じられないぐらい高速に動作し、今まで自前で作っていたのが馬鹿らしくなるほどだった。やっぱり自分で車輪の再発明なんてするものではない。良いものはどんどん取り入れていくべきなのだ。


 あまりにも高速に動くので、そのソースコードを追ってみた、するとほとんどの部分がアセンブラで書かれている上に、テクニカルすぎる拡張命令の使い方をしていたのでさっぱり動きが理解できない。芸術的とも言えるし、変態的とも言えるコーディング内容だった。しかもマイナーなアーキテクチャ用のコードも用意されていて、いったい何を考えて作ったのか小一時間問い詰めたい気分だ。どうやらコレをたった一人で作ったらしいのだ。


 その演算ライブラリの名前はギスケ。僕はそのギスケライブラリを使い、学習によって3Dモデルや音声データを自動生成するAIギスケの開発を始めた。動作原理は単純で、データの収集、解析、出力の3つのフェーズを繰り返す。そして出力したデータを最初のフェーズに再投入して再検証させる。


 こうして出来たデータは、自動生成とは思えないほど良く出来ていた。しかしあくまでも収集したサンプルデータに基づいている為、最終的な出力データが同じような物に収束する。これは現実世界では不自然な状態だ。これ解決するため、解析フェーズを自己改編するように作り変えた。この変更によって、出力データが一定の形に収束するという問題を解決することが出来た。


 自己学習によって、現実世界にありそうだけど実は存在しない、そんなオリジナルデータを作り出すAIシステムだ。


 僕はAIギスケをBSDライセンスで公開することにした。かなり良く出来たとは思うんだけど、自分自身で使い道が思いつかなかった。これを使って誰かが面白いものを作ってくれたらいいな。


 公開直前の検証作業でずいぶんと時間を使っていたようだ。気がつくと丸一日なにも口にしていない。没頭しすぎて水分補給すら忘れていた。コレはマズイ。トイレに行ったら何か食べよう。食料は何が残っていたかな?


 僕はとりあえず用を足そうと立ち上がる。その時、玄関からガチャリと音が聞こえた。


(しん)ちゃん、生きてます~?」

「残念、生きてます。」


 僕は玄関の扉を開けた姪に返事をする。


「チャイムを鳴らしたんだから、出てきて欲しいな~。」

「あ、そうなの? 聞こえませんでした。」


 ちなみに僕の年齢は26歳、大学中退後ずっとニートをしている。姪の名前は風海(かざみ)。もうすぐ15歳・・・だったっけ? 高校受験を控えた中学生だ。


「重いから手伝って。野菜も買ってきましたよ~。」

「野菜は完全に枯渇してたから助かります。」

「それとせめてゴミはまとめておいて。今日は収集日ですよ~。」

「はい、直ちに!」


 僕はそこらに転がるゴミを市指定のゴミ袋に放り込んでいく。


「じゃあ、ゴミを捨ててくるので、食材をしまっておいてくださいね~。」

「了解でございます。」


 僕が外出をしないようになって何年経ったかな? もう覚えていない。もはや隠者と呼んで良いレベルだ。 姪の風海が時々やってきて、食料の搬入とゴミ出しを行ってくれる。まあ食料は通販で何とかなるんだけど、ゴミ出しは・・・もし彼女がいなければ、この部屋はゴミで埋まっていたことだろう。


 風海はゴミ出しから戻ってきた。僕は5000円分の某通販会社のプリペイドカードを渡す。


「毎度ありがとうございます。今後ともごひいきに~。」


 こんな感じでお小遣いを渡し、細かい用事を引き受けてもらっているのだ。この金額に食料の買い出し費用も含まれているので、差し引きの金額は本当にお小遣い程度なのだ。


 僕は引き籠もりニートだけど、自作アプリの売り上げ等でそれほどお金には困っていない。外出しないから出費少ないし。


 僕は昔から人の視線が苦手で、中学・高校では思い出したくないようなことが色々あった。そして大学まで進んだものの、人の視線に耐えられず、それが悪化してとうとう通えなくなってしまったのだ。それからは・・・ずっと引き籠もり生活を続けている。


「掃除機をかけたらご飯を作ります。炊けてるご飯はありますか? それと辛ちゃんは玉子焼きを作ってくださいね~。」


 彼女は僕の作る玉子焼きが非常にお気に入りらしい。僕もその気になれば一通り料理は作れるんだけど、一人の時は面倒くさくてレトルトや缶詰、冷凍食品、カップ麺になる。


 ふと妙な違和感が僕の中に生まれる。ずっと続いているいつも通りの光景だ。別に違和感など感じるはずはない。だけど何なんだろう、この感覚は?


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