12 ジメジメとする惨め
ボス部屋ルートに合流するポイントを目指して歩く。途中青いキノコを発見したので、せっせと袋に詰める。今回コボルトの襲撃は無い。そして目的の道に合流した。冒険者のパーティーが何組か歩いている。ボッチの僕には悲しみしか感じない光景だ。
「アフタじゃないか?奇遇だね。」
突然声をかけられた。最近さっぱり名前を呼ばれないから、自分の名前を忘れかけていた。
「ああ・・えっとサドン?」
僕は相手の名前も忘れかけていた。冒険者ギルドの講習会で一緒だった優男だ。
サドンの周囲を見ると、パーティーメンバーと思われる冒険者は誰もいなかった。
僕の視線を感じ取ってサドンが言う。
「ああ、一人だよ。なかなか僕についてこられる人がいなくてね。昨日第一層のボスを倒し終わって、今日はこれから第二層に向かうところさ。君は?」
僕はこの辺りで素材を集めてお金を稼いでいるという話をした。
「そうかい、それは大変だね。頑張ってくれよ。先に第二層で待っているよ。」
そう言って、髪をかき上げるサドン。だからなんで髪をかき上げるんだ?そんなにかきあげが好きなら、油でかき揚げでも作って暮らせば良いのに。
ダンジョン内でそんな立ち話をしていると、危険な気配に気づく。コボルトだ。そして数は・・・10。そしてタイミングの悪いことに、さっきまでいた他の冒険者達の人通りがぷっつり切れていた。ヤバい。僕は逃げないと死ぬと判断した。
「邪魔だな。」
サドンはそう言うと剣を抜いた。刀身が濡れたように光る美しい剣だ。コボルト10匹の中心に突撃していく。アホか?僕はそう思った。
サドンが剣を両手で一閃する。その一撃でコボルト3匹の首が飛んだ。返す剣を片手で振る。2匹の首が飛んだ。さらにサドンは舞うような動作で、1匹、また1匹と首を飛ばしていく。どれだけクルティカってるんだ?あっという間にコボルト10匹は壊滅した。・・・僕はもう、何も言えなかった。スライムを1匹倒して強さを実感していた、さっきの自分を一発殴りたい。
「ああ、すまないね。獲物を横取りしてしまったか。お詫びに核やドロップは置いていくよ。じゃあ、僕は先を急ぐよ。」
そう言ってサドンは去って行った。残されたのはコボルト10匹の亡骸と、今まで何をしていたんだろうという虚無感だった。
僕はフラフラとコボルトの核を回収する。「このままじゃ駄目だ、このままじゃ・・・」僕はブツブツと呟きながら、ドロップしたコボルトの爪とコボルトの牙を魔法の袋に詰める。惨めだった。
核を抜いたコボルト達は、蒸気を発しながら消えていく。その後には、さすがに売り物にはならないだろうというただの石ころが転がっていた。僕はその石を拾って見つめる。ハァっという深いため息。今頃になって冒険者のパーティーが僕の横を通り過ぎていく。
僕は拾った石を壁に向かって投げた。カツっという音を立てて跳ね返る。当たり前だが石を投げた結果はそれだけだ。僕は自分の槍を見た。冒険者の初心者スタイル。本当にこれでいいのか?僕はボス部屋の方に行くのを諦め、力の無い足取りで街に戻ることにした。
売却品
スライムの核 500シュネ × 1
コボルトの核 1300シュネ × 10
青いキノコ 100シュネ × 13
コボルトの爪 2300シュネ × 4
コボルのと牙 3000シュネ × 1
今までの収入は最高記録2万7000シュネだ。所持金は3万3300シュネとなった。しかしほとんどがサドンに恵んでもらった結果だ。さっきのショックで多少食欲は落ちていたけれど、食べなければ戦えない。僕は露店で串肉を買って無理矢理胃に詰め込んだ。800シュネの支出だ。
時間はまだ昼を少し過ぎたところ。ダンジョンに潜る時間はある。その前に僕は洋裁の店に立ち寄る。そこで布とソーイングセットを購入する。4500シュネの支出だ。僕は黙々とある物を縫った。そして再びダンジョンへ潜る。僕には僕なりの戦い方があるのだ。




