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118 脂肪は付かない死亡フラグ

「さて、それじゃあ第六層の様子でも見てみようか?」

 そう提案するサドン。しかし彼の顔色がかなりおかしい。今までは氷のフィールドが青白かったから気にしなかったけれど、彼の顔色は凄まじくヤバイ。ちょっと顔色が悪いどころでは無かったのだ。


「サドンさん、少し休んだ方が・・・。アフタさん、箱庭でサドンさんを。」

「分かりました。いったん休息をとりましょう。」

 僕は箱庭の水晶を出して三人で移動する。


「へえ、なかなか洒落た家だね。女の子を招待するのに使えそうだ。」

 真っ青な顔でも軽口を叩こうとするサドン。

「いいから黙って。」

 僕はサドンを担ぎ上げて寝室へ運んだ。箱庭の寝室は二つ。それぞれの部屋にベッドが二つずつある。サドンは僕がいつも使っているベッドの隣に寝かせた。


「大げさだな。少し休めば大丈夫さ。」

 真っ青な顔、青白い唇、何が大丈夫なんだよ?


「怪我の状況を確認します。水系統の回復魔法なら使えますので、できる限りの処置はします。」

 スコヴィルはヒーラーも担当できるらしい。彼女が使えるのは水と風属性限定だけどこの二種類、実は使い勝手がいい。そして彼女はサドンの身体に手を触れて診察を開始した。


「そんな・・・内臓が一部壊死してる・・・。毒が・・・酷い。」

 彼女のつぶやきの一つ一つが不吉すぎる。さっきまであんなに凄まじい戦いぶりを見せていたのに、さすがにそれは無いだろう。

「毒を浄化します。」

 そう言うと、サドンの腹部に手を当てて魔力を込めている。水魔法なら毒を洗い流したり出来るのかな?

「この毒、強力すぎる・・・。」

 スコヴィルは焦りの表情を見せている。ちょっと、遅れてやってきた死亡フラグなんて洒落にならない。


「魔法の超強化で何とかならないんですか?」

「回復魔法は下手に強化すると、逆に身体を破壊してしまいます。だから迂闊には使えないんです。」

 ああ、確かにそういうのを知っている気がする。強力な回復力を持つ敵を相手に、更に強力な回復魔法を浴びせて倒す話。薬も過ぎれば毒となる。こうなってくると、彼女の力を信じるしか無い。


「毒はかなり薄めることが出来ました。あとは壊死している部分を何とかしないと。」

「そんなに凄いことになっているのかい? 今までこんなダメージを受けたことが無かったからね。腹を刺されるとこうなるのか。いやあ、毒まで塗ってあったとは思わなかった。なかなか貴重な体験だよ。」

 サドンの意識はまだしっかりしている。しかし顔色はどんどん悪くなる一方だ。僕がこんな状況だったら、とっくに気を失っている。いや違うな、たぶん死んでいる。


「これ以上は・・・サドンさんの体力が保ちません。」

 スコヴィルは魔法を中断する。

「どういうことですか?」

 僕は事情を確認する。


「サドンさんの体力が底を突きかけています。このまま回復魔法を使い続けると、逆に体力を使い果たして死んでしまいます。治療院であれば、体力回復と治療を同時に行えるのですが・・・。」

「ポーションを飲んだから、大丈夫だと思ったんだけどな。」

 相変わらずのサドンだが目の焦点が定まっていない。明らかに弱ってきている。


「そうだ、スタミナポーションを飲ませれば!」

「この状態で飲ませるのは逆に危険です。あれは一時的な効力しかありませんので。」

 僕のアイデアは速効で却下される。スタミナポーションでは駄目となると、もはや打つ手は無い。衰弱していくサドン。


「そんなに心配しないで欲しいな。僕は・・・だい・・じょ・・・。」

 とうとう意識を失うサドン。ヤバイ、本格的な死亡フラグがそびえ立っている。どうにかしないと本当に死んでしまう。


「もう、サドンさんの体力にかけるしかありません。もっと早く気づいていれば・・・。顔色が悪いのは分かっていたのに。」

 スコヴィルは自分を責めるように言う。彼女の性では無い。僕だって気がつかなかったんだ。


 こういう時こそ冷静に。責任の所在なんてどうでもいい。重要なのはサドンを救うことだ。彼の体力を回復させれば望みはある。考えろ、考えるんだ。まだ何かあるはずだ。


 そうだ!


「スコヴィルさん、サドンをしばらくお願いします。僕はちょっと準備をしてきます。」


 そう言い残してキッチンへ向かった。そこで僕は調味料を確認する。これで何とかするしか無い。


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