116 滑降していく格好良さ
カッチェが男色家。まあ、他人に趣味に口を出すつもりは無い。
カンゾウは説明を続けた。前回はサドンに不覚を取った。しかし今回は違う。自分に注意を向けさせて、カッチェに死角から攻撃させれば勝てる見込みがあると。結局、一矢報いることは出来たけれど、倒しきるには至らなかった。サドンが想像を超えて強かったのだ。
「次戦うなら、私も戦力に入れなさい。」
「承知しました。しかしその為にはもっと強くなっていただかなければなりません。」
「分かっているわよ。これからは本気で修練を積むわよ。」
私は分不相応ともいえる力を手にしていた。そしてダンジョンで経験を積み、それなりに戦えるつもりになっていた。しかし今回の件で思い知った。実際は何一つとして身についていなかったことを。
その後、カンゾウには反対されけれど、私は一人で三層のフィールドモンスターを相手に戦った。さらに修練のため、墓場ゾーンへ出向き大量のアンデッドと真っ向から戦った。遠距離魔法無しという縛りを付けて。あのサドンを想定すると、私のスピードではついて行けない。基礎的な戦闘能力を向上させる必要があるのだ。
そんなことを繰り返しての三日目、事件は起こった。私はいつものように修練を積むため、一人で町を出ようとしていた。そこへ仮面を付けた男の子を発見する。体格がアフタに似ていたけれど、顔が・・・良く分からない。しかしアフタは、ああいう派手な仮面を付けるタイプでは絶対に無い。別人だろう。
「格好いい仮面を付けているのね。それってどこかで買えるの?」
私は仮面の男の子に話しかけた。
「うごぉぉ。」
変な反応が返ってきた。
隣にいた少女が嬉しそうな顔をする。
「このアフタさんの仮面だったらダンジョンのドロップ品ですよ。やっぱり格好いいですよね。」
え?
「アフタ?」
私は仮面の男の子の方を見た。顔がよく分からない。私は目を細めて観察する。
「あなた、アフタなの? ちょっと、その仮面を取って。」
こんなに近くにいて、私がアフタの顔を区別できないなんておかしい。あの仮面の何らかの効果のせいかもしれない。
「いや、人違いデスヨ。この仮面は・・・ノロイデハズレナインデスヨ。」
アフタの声だ、間違いない。
「笑えない冗談ね。怒るわよ。」
やっと、やっと会えた。ここまで来るのにどれだけ時間がかかったことか。懸命にお金を貯めて、魔法の修行や戦いの修練をし、ついこの間は仲間が死にそうな目にも遭った。
私は泣きそうになるのを堪えた。油断をしたら話すことすら出来なくなってしまいそうだ。ここまで来る間に色々考えたけれど、私はやっぱりアフタが好きなのだ。だから彼の為に・・・ダンジョン攻略を手伝ってもいい。
「ウーナ!」
アフタが叫んだ。いったい何を? あれは・・・本で見たことがある。目の前には突然、黒豹という種類の動物が現れた。
「スコヴィルさん、乗って!」
アフタは黒豹にまたがると、スコヴィルと呼んだ少女と共に私から離れていく。あまりの突然の出来事に何も対応できなかった。修練の結果が何も反映されていない。私は駄目なままだ。
「アフタ、何で逃げるの? ようやく会えたのに・・・。何で・・・逃げるの? 私が何をしたっていうの?」
私はアフタに向かって、そう叫ぶことしか出来なかった。そんなに私のことが嫌いだったの? 何で・・・?
ふと自分が泣いていることに気づいた。大好きな人を追ってここまで来た結果がこれだ。言葉を交わすことすら出来ず、一方的に拒否されたのだ。いったい私は何のためにここまで来たのだろう?
突然、私の身体の中を何かが這い回る感覚に襲われる。耐えきれずにしゃがみ込んだ。まただ。村を開拓するときに、古くから伝わる石碑の一つを別の場所に移動させたことがある。私の祖父である村長は絶対に動かしてはならないと猛烈に反対した石碑だ。あの時と同じ感覚。たまたま体調が悪い日が重なっただけ、そう思ったあの時と同じ感覚。
身体の中を這い回る何かは、私にどす黒い感情を植え付ける。アフタが憎い。アフタと一緒にいた女が恨めしい。怒り、嫉妬、憎しみ、嫌悪、そんなものが私の名を縦横無尽に這い回る。
「ち・が・う。もう一度・・・もう一度、アフタと会って話を・・・すれば。」
そうだ、まだきちんと話してもいないのだ。もしかしたら何かの事情があるのかも知れない。もう一度会う。それでもし私のことが嫌いだと、そうハッキリ言われたら、私はアフタのことを諦めよう。
「はぁ、はぁ。」
私は十分の中の何かを落ち着かせる。このダンジョンに来てから私は変だ。自分が自分で無くなる、そんな気がする。
「助けてアフタ。お願い、助けてよ。」
アフタは鬼畜




