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107 爆死しそうな博打

 とうとう来てしまった第三層始発の町。リコッテがいるかいないか生死を分けた博打。分かっている、こういう博打に勝った試しは無いのだ。


「アフタさん、大丈夫ですか?」


 僕の顔色が酷いことになっているのだろう。スコヴィルが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。最近は彼女が近くにいるおかげで、女性に対する免疫がそれなりに付いてきた気がする。このままコミュ障も返上したいところだ。ところで認識阻害の蝶仮面を装備しているのに、顔色の判別は付くものなのだろうか?


「大丈夫です、行きましょう。」

 僕はそう言って町の入り口を押す。扉は開いた。


 さて、ここで最良の結果は何か? サドンを見つけリコッテに会わないことだ。僕はキョロキョロと周辺を探る。現時点でリコッテの気配は無い。しかし問題はサドンの気配も無いと言うことだ。最後に会ったあの時に落ち合う方法ぐらい確認しておけば良かった。


「仕方が無いので、地味な服を売る店に行きましょう。」

 僕達は防寒装備を買うため、無口なお婆さんの見せに向かった。


「あれ? おかしいな、この辺りにあったはずなのに。」

 見つからない。確かに店はあったはずなのだ。場所の記憶を違えたのか?

「もしかして・・・。」

 スコヴィルが何か思い当たったようだ。

「たぶんアフタさんの入った店は、ダンジョンに突然出現する特殊エリアだと思います。」


 彼女が言うにはダンジョンには時々、何の脈略も無く宝箱や回復の泉が出現したり、店が現れたりするらしい。始発の町もダンジョンの一部なので、そういう現象が起こったのでは無いかと言うことだ。回復の泉は見たことが無いけれど、確かに宝箱はあった。そしてそういう店で売っているアイテムは、貴重で効果が高いものが売られていることが多いらしい。


 地味な服の店は空振りに終わった。こうしていても仕方が無いので、ガソリンの補充など必要な準備を行った。そして僕達は宿爺を訪ねることにした。宿爺はいつも通り宿の周りの掃除をしている。僕は蝶仮面を外す。


「お、アフタ君、久しぶりだね。最近見なかったが、元気そうでなりよりだ。」

「おかげさまで、今のところは生き残ってます。」

「スコヴィルさんも、色々と大変だったね。今はアフタ君とパーティーを?」

「はい、その節はご迷惑をおかけしました。」


 たぶんスコヴィルパーティーでゴタゴタがあった件についてなのだろう。それについて僕は口を挟まない方がいいだろう。


「そうそう、アフタ君。」

「はい?」

「リコッテ嬢がアフタ君を探しておったよ。見つけたら知らせて欲しいと言われていてね。」

「えぇぇぇぇぇ!!!! し、知らせないでください。お願いです。」

「ふうむ、彼女はとても良い上客だからの・・・。」

 

 宿爺は腕組みして困った顔をする。そしてニカっと笑う。

「冗談だよ。私とアフタ君の仲だ。浴場の件ではずいぶんと儲けさせてもらったからの。」

「本当に・・・お願いしますよ。」

「何をやらかしたのか興味はあるが、客が嫌がることには触れないのが商売の基本。分かっておるよ。」

 宿爺、人が悪すぎる。


「それはそうと、別件で伝言がある。サドン君から第五層で待つと三日前に言付かってね。確かに伝えたからの。」

 サドンは第五層か。きちんと合流できるかな?


「それとアフタ君、気をつけた方がいい。サドン君はけっこうな怪我を負っていたのだよ。本人は問題ないと言っていたが、治療もせずに町を出て行ってしまったが心配でな。」

「サドンが怪我?」


 ちょっと待て。クリティカルのユニークスキルを持つサドンが怪我を負うってどういう状況なんだろう? 第三層前後の魔物にやられたとは到底思えないんだけど。とにかく早く合流した方が良さそうだ。重要そうな秘密を抱えたままお亡くなりになるという、お約束死亡フラグの臭いがする。


 そして僕は再び蝶仮面を付ける。

「スコヴィルさん、第五層へ急ぎましょう。ちょっときな臭い展開になってきました。」

「はい。サドンさんの怪我が心配ですね。」


 僕達は町の出口へと向かった。その途中、ついにその時は訪れた。僕の最も恐れていた瞬間が。距離は少し離れているが見間違えるはずは無い。この世界で最も一緒にいた時間が長い人物なのだから。


 リコッテ・・・。 


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