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106 皿からさらっとさらわれる

 47日目。

 今日も風呂好き魔術師スコヴィルは朝から入浴中だ。昨日は夜に入っていたから朝は無いと思っていたんだけど、朝晩入るらしい。猫型ロボットの話に登場する静かな人みたいだ。一応言っておくと、今後はハプニングイベントは無いよ。絶対に無いよ。


 今日は昨日買っておいた食材を使って朝食を用意した。メニューは卵焼き、オムレツ、チャーハン。全部卵を使っている。何故かって? 昨日、卵売りの少女が不憫で買いすぎたんだ。その子は売り物の卵を突然割ってブツブツ言っていて、何故か幸せそうな顔をしているのがヤバかったんだよ。完全に目は逝っていた。


 食材は米やミリンを含めて、一通り手に入った。顆粒出汁まで売っている。何故だか知らないけれど、以前に比べると和風なものの品揃えが圧倒的に増えている。


「朝食を作ってくれたんですか? あ!」

 風呂から上がったスコヴィルがやってきた。そして卵焼きを見つけて何故か目の色が変わった。


「これ、卵焼きですよね?」

「はい、卵焼きです。僕の作るのは甘いタイプです。」

「本当に卵焼きですよね?」

「? そうですよ。」

「本当の本当に卵焼きですよね?」


 いったいどうしたというのだろう。何か卵焼きにトラウマでもあるのだろうか?


「冷めないうちに食べましょう。」 

 僕がそう言うと、彼女から「いただきます」の声が聞こえた。そしてそれは一瞬の出来事だった。すでに彼女の口がもごもご動いていた。いったいいつ口の中に入れたのだろう? 気がつくと、卵焼きが一切れ消えていた。目を離したつもりは無かったのに、まったく見えなかったのだ。


 とりあえず僕はオムレツとチャーハンを食べ始めた。取り合わせは微妙だけど、卵が余っているので仕方が無い。そして卵焼きを食べようと視線をそちらに移した瞬間、全ては終わっていた。皿には何も無かった。目を皿のようにしても結果は変わらない。全て食い尽くされていた。僕は彼女の方を見た。そこにいたのはハムスターだった。


「・・・。」

「モグモグモグ。」

「・・・。」

「モグモグモグモグ。」

「・・・。」

「モグモ、ゴクン。」

「・・・。」


 僕は黙ってハムスターを観察した。時々ハムスターは口の中に食べ物が入っているのを忘れて、そのまま腐らせてしまうことがあるらしい。そのせいで病気になってもらっては困る。


「あ、あの、ごめんなさい、全部食べちゃいました。」

「いい食べっぷりですね。作りがいがあります。」


 スコヴィルは恥ずかしそうな顔でモジモジしている。そんなに好物だったのか。通り名は風呂好きのスコヴィルか、卵焼きのスコヴィルに変更した方がいいのでは無いだろうか? 僕だけいつも変なのは不公平だ。


「甘い卵焼きですが、大丈夫でしたか?」

「私、これ大好きです。元の世界で食べた味に凄く似てます。」


 卵焼きはご家庭によって味が全然違う。だから違う家庭の卵焼きを食べると、けっこう違和感が生じるものなんだけど、口に合って良かった。そういえば元の世界で僕は、こんな感じで料理を作ったことがあったような気がする。しかしコミュ障の僕は誰かに料理を作る事なんてあったんだろうか?


 その後彼女は、オムレツとチャーハンも残さず平らげた。おかわりしたそうな顔だったので、もっと作ろうか聞いたところ、これ以上食べると太るのでやめておくとのことだった。冒険者はカロリー使うから気にする必要は無いと思うんだけどなあ。剣聖とか武王の人は鬼のように食べてたし。


 そして朝のミーティングだ。まず出来ればサドンと合流したい。危険は承知の上で、第三層の始発の町へ行くという話になった。やっぱり町の外で隠れているのは駄目だよなあ。そうなると僕はまた蝶仮面か・・・。ぶっちゃけあれ、効果が無かったような気がするんだけど・・・。しかしスコヴィルの「このマスクさえあれば絶対大丈夫です!」という言葉に圧されて始発に町行きが決定したのだ。


 リコッテに会って大丈夫。何故ならエンカウントしたら全力で逃げるからだ。パワーアップしたウーナの神速を見せつけてやる。ちなみに黒豹タイプとなったウーナは、身体が大きくなった分だけ格段に乗りやすくなった。三輪車的な感じから小型バイクに変わったり、二人乗りも問題ない。


 ということで僕達は再びダンジョンへと足を踏み入れた。


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