105 図書館で本を見ながら出していい音、何ホーン?
図書館は想像していたよりも遙かに大きかった。てっきり冒険者用の場所だと思っていたら違ったようだ。貴族や学者など、地位の高い人達が利用している施設らしい。凄い場所なんだけど、中に入るのは受付でギルドカードを提示するだけで済んだ。
初回利用だったので簡単なルールを説明された。本は持ち出し禁止、棚から取り出した本は自分で元の位置へ戻さず司書に渡す。あとは一般的な図書館と同じように飲食禁止、大きな声での会話禁止などだ。
僕とスコヴィルは呆然となっていた。彼女もこの図書館に来るのは初めてらしく、こんなに広いとは思っていなかったようだ。僕達はダンジョンに関する情報を手分けして集めることにした。
手近なところで魔物図鑑を手にして確認する。ずっしりと重く内容が事細かに記されている。僕が戦った魔物はほんの一部にしか過ぎないようだ。この世界はダンジョン以外にも魔物の生息域は多いらしい。
そしてようやくダンジョンについて詳しく書かれた本を発見した。七大ダンジョンの場所や生息する魔物、フロアの構成などが書かれている。当たりかと思って読み進めると、各ダンジョンとも最大で第四層についてまでしか書かれていなかった。初版の日付を確認すると二十年前となっている。微妙だ。
しかし完全に役に立たなかったわけでは無い。ソルトシールダンジョンの第十層にあると言われる神の至宝は「知識のトライアングル」というものらしい。僕の脳内にチーンという音が響いた。なんだろう、ダンジョン踏破の果てにトライアングルを手にする光景というのは? シュールすぎる。
色々と調べているうちに、どんどん棚から取り出した本が増えてきた。自分で戻してはいけないルールなので、これを司書の人に渡さないといけない。コミュ障の僕にはなかなかハードルが高い。
「アフタさん、これを見てください。」
スコヴィルが小声で呼びかけてきた。
「司書さんから本を選んでもらいました。それで重要そうな内容を見つけました。」
なるほど、司書に要望を伝えれば必要な本が分かるのか。まあ、自慢じゃ無いが僕のようなコミュ障にそれは不可能だ。
彼女が持ってきたのは・・・『世界の秘境温泉・絶景とグルメの旅』
「・・・。」
僕が表紙を見て呆然としていると、それを数冊ある本の一番下に隠した。そして次に出てきたのは世界の伝承に関する本だった。僕はサクッと内容を確認する。要約しよう。
この世界は最初なんの力も持たない静寂の世界だった。そんな世界に転機が訪れたのは、異世界の魔王の力によってだ。魔王の名はアストレイア。魔王アストレイアは異世界に干渉する術を使い、無尽蔵とも言える魔力を周囲に振りまいた。目的はこの世界にとても近い位置にある異世界から、何かを召喚することだったようだ。
結果、ばらまかれた魔力によって静寂の世界は力を得る。その力はこの世界に眠っていた知性を神と変えた。神は強力な力を行使し初め、新たな世界の創造を始めた。その過程で七つの至宝を生み出し、各地にそれをばらまいた。それが七大ダンジョンに繋がる。
この本を書いたのは、高名な占星術師らしい。しかしこの世界が仮想世界の延長だと考えると、これをどう評価するか難しい。本当の話なのか、そういう設定なのか。
僕が考え込んでいると、スコヴィルが僕をずっと見ていることに気がついた。
「気が散りましたか? ごめんなさい。」
突然慌て始める彼女。
「あの・・・いや、別にいいんですけど、スコヴィルさんは何か気になるところはありましたか?」
「私はこういう難しい本は苦手で・・・。でも頑張って調べますね。」
魔術師なのに難しい本が苦手なのか。この世界の魔法って、そういうものなのかな? まあ、本が読めても魔法の才能が見込めない人間をよく知っているし、そんなものなのだろう。
さらに魔物の核について書かれている本もあった。核は魔物のエネルギーの源であり、本体とも言える。魔物を倒すと核を残すが、それを使い再び魔物を生み出す技術が存在しているという。実際、国同士の戦争で核から生み出された魔物が使用されたこともあるという。その技術は神の至宝によって人間にもたらされたらしい。ちなみにさらに別の本には七大ダンジョンの内、踏破された2カ所の話が書かれていた。
ダンジョン踏破が行われた2カ所は、隣接する国でほぼ同時期だったという。そこで得られた至宝は、それぞれの国に多大な力と富を生み出したらしい。しかしそこからが悲劇の発端だった。同時期に力を得た2国は、覇権を争いそのまま戦争状態となってしまう。結果、多くの人間が死に、どちらの国も滅亡寸前まで追い込まれた。魔物や強力なマジックアイテムを生み出して戦争に使っていたのだから当然の流れだろう。
至宝によって得られた力は、国の混乱によって周辺諸国へ分散することになったようだ。これは20年以上昔の話だ。僕の脳裏に疑問がよぎる。
「スコヴィルさん、一つ聞きたいことがあるんですが?」
「はい。」
「スコヴィルさんはこの世界に来てからどのぐらい経ちますか?」
「えっと・・・半年ぐらいです。」
半年? スコヴィルさんの今までの話から察するに、この世界・・・ゲームがテストできる段階で作られたのも、半年からそれほど差は無いはずだ。僕のこの世界での年齢は12歳。どういうことだ? この世界での僕の記憶は3歳ぐらいからあるのだ。少なくとも9年が経過している。
なんだか情報を得れば疑問が増えていく感じだ。結局、図書館の閉館時間がやってきてしまい、疑問を解く情報には辿り着けなかった。僕達は夕食を食べて箱庭に戻ろうと人通りの少ない路地の方へ向かう。
「タマゴ、タマゴはいりませんか?」
そんな帰りがけに見かけたのは、タマゴ売りの少女だ。見るからに薄幸の少女。既に空は暗く風は冷たい。こんな時間に・・・意味が分からない。
【 46日目 】
単価 個数 金額 項目
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-35万0000蝸 10個 -350万0000蝸 魔晶石
-1900蝸 2個 -3800蝸 朝食
-2800蝸 2個 -5600蝸 夕食
-80蝸 100個 -8000蝸 タマゴ
-4万3000蝸 1個 -4万3000蝸 調理器具一式
-6800蝸 1個 -6800蝸 食材
[ 残金 242万1700蝸 ]




