1 田舎ではいい仲にはなりません
僕は金貨の入った袋を握りしめ、冒険者ギルドの前に立っている。
金貨は合計100万シュネ。
転生前の世界での金銭的価値は、厳密では無いにしろ、おおよそ100万円という感覚だ。
この大金を稼ぐためにどれだけ苦労したことか。
そもそも僕が生まれたのはとんでもないド田舎の村だった。
物心がつき始めたときに、ふと僕は前世の記憶があることに気がついた。
僕の心は躍った。
これは転生だと。そして小説にあるような俺TUEEE展開を期待した。
自由に行動できるようになってからは、何でもいいから強くなろうと、木の棒を拾い上げひたすら素振りした。
両親は変な遊びをする子だと笑っていた。
さらに魔法の一つでも覚えようと思ったものの、村のどこにも魔法が使える人間などいなかった。
せめて学問でも修めておこうと思ったものの、この村には学校すら存在しない。
それどころか両親は文字が読めなかった。
なにこの村?
村の名前はボリハ。完璧なる第一次産業の村、つまり農村だ。
農業と畜産業が中心のこの村で文字が読めるのは村長一家ぐらいだった。
僕は4歳の時に村長の家で文字を習った。
村長は白ひげを蓄えたお爺さんで、見事な村長面だった。
そして僕は、村長の孫娘リコッテと一緒に勉強した。
村長は僕のおかげで孫が勉強するようになったと喜んだ。
前世の記憶を持つ僕は精神年齢の高さから、
瞬く間に文字の読み書きが出来るようになり、リコッテに教えることが多くなった。
ただ、前世からコミュ障というをバッドステータスを引き継いでしまっている僕は、彼女と勉強以外の話をほとんどしていない。
そんな日々を送りつつも、何かイベントが起こらないか待ち続けた。
しかし村は平和だった。
僕は家の手伝いをするようになり、畑の雑草を毟ったり、豚や鶏に餌をやったりと仕事をした。
僕が六歳になったときに、ついに最初のイベントが起こる。
冒険者が村にやってきたのだ。
冒険者達は4人。その中になんと魔法使いが混じっている。やっぱりこの世界には魔法があったのだ。
冒険者達は目的地への近道をするため街道を無視し、途中の山を突っ切ってこの村に立ち寄ったらしい。
なかなか無茶な人達だ。
村長の家で一泊する冒険者達から、僕は色々な話を聞いた。
冒険者達はソルトシールという街からやってきたらしい。
神が作ったという伝承が残る七大ダンジョンの一つがある街だ。
伝承については村長の家にあった本で読んだ。
貧困に喘ぐ人間を救うため、神が七つの至宝を世界にばらまいたという。
そしてその至宝がある場所が魔力を発し、いつしかダンジョンに変わり、周辺に影響を及ぼし繁栄をもたらしたという。
魔力を多く含むそのダンジョンには、魔物が大量に発生するらしい。
冒険者達が適度に駆除することによって、バランスが保たれるという。
しかもダンジョンの中には魔物だけでなく、人間にとって価値の高い素材などが発生するらしい。
ダンジョンに入るためには、冒険者ギルドに加入するのが必須要件となっている。
加入には100万シュネという大金が必要だ。
ダンジョンにはそれだけの価値があるという。
そして僕は冒険者達に、自分も冒険者になってダンジョンを探索してみたいと言った。
冒険者達は、それには命の危険が伴い、毎日沢山の冒険者が死んでいることを告げた。
それを知った上で本当に行きたいのなら、止めはしないと。
そしてもしソルトシールに向かうなら、最も大切な気構えがあると言った。
いったい何を教えてくれるのかと、僕は前のめりで聞いた。
「人間を信用するな。」
僕はダンジョンよりも、人が恐ろしくなった。