乙女ゲームの中に憑依転生しました
乙女ゲームの世界を一度書いてみたかったのですが、ネタ的には3分ほどで考えていますので、おかしな点があったら申し訳ありません。残酷な描写ありは保険です。
気が付いたらファンタジー系、乙女ゲームの中に居ました。つい先日までは日本人、三十路女の「わたし」だったのが、なぜか一人称が「私」の超絶美貌のお嬢様になっております。
お嬢様の今までの記憶は漠然と分かるので、多分わたしの意識が憑依しているだけで、ゲームをクリアすれば戻れるのではないかと推察しました。
なぜゲームだと分かるのかと言えば、ちょうどゲームのオープニングイベントが目の前で繰り広げられているからです。
「お迎えに上がりました、アヤノ様」
そう言って跪いて手を差し出したのが、漆黒の髪と目をしたアーディル。
その向こうで馬車の扉を開けている、青い髪と目をしたのがバルディア。
緑の髪と目をしたキースと赤い髪と目をしたディードは、それぞれが乗る馬の手綱を二頭ずつ持っています。
御者には銀髪に青い目のエルダー。
全員が趣の異なる美形で、攻略対象者です。色違いの髪は乙女ゲームのお約束というやつですし、青とか緑とか、そんな髪の色なんてありえないですが、ファンタジーだしOKです。大体、日本が舞台なのにピンクの髪とか真っ赤な髪とかの登場人物が普通にいる乙女ゲームの世界では、どちらかというと大人しめの方ですから。
「アヤノです。道中お世話になります」
アヤノ様はそう一礼すると、アーディルの手を取りました。流れるような動作で王女の手の甲に口づけを落とす、アーディル。愛想のあの字もない無表情ですが、好感度ゼロですし、こればかりは仕方がありません。美形ですから、それだけでも眼福です。
設定はこんな感じです。
光の国ファリアルと闇の国ジルエストは長い間戦争をしておりましたが、闇の国の強い勢力の前に光の国はほぼ負けかかっておりました。
そんな中、ジルエストから和平の申し込みがあったのです。
ファリアル国第一王女、アヤノを闇の国に嫁がせるのならば、戦争は止めるとのこと。事実上の人身御供ですが、このまま戦っても滅ぼされるのを待つばかりなファリアルは、王女を差し出すしか方法がありません。
輿入れする王女を迎えに、闇の国から護衛の騎士が派遣されてきます。
それがこの五人、誰も彼もが美形な騎士たち。攻略対象者ですね。
王女は王に嫁がなくていいのかって?
闇の国というのは血筋よりも実力が重視される国でありまして、国王=国で一番強い人物です。まさにボス猿タイプ。ですので、部下たちも王が強いから従っている部分があります。嫁に行く王女と言えどもその規則が当てはまるのですが……そもそも、ジルエストは「嫁げ」と言っているだけで、「国王に」とは一言も言っていないんですよね。
王女は闇の国までの道のりを一か月かけて行く間に、勉強をして知力を上げ、騎士たちの誰かに護身術を習って体力を上げつつ、好感度を稼ぎ、RPGの要素があるので襲ってくる盗賊やら魔物やらを倒しつつレベルアップに励み、宿に着けば攻略対象のイベントをこなさないと、使えない人材扱いされるようになります。
更に、余りにも能力値が低い場合、途中で闇の国の反逆者たちに暗殺されてしまうんです。
ジルエスト内の反乱分子をあぶり出す駒にされるわけですね。
戦争を止めたのも、反乱分子の殲滅にちょっと手間取ったからで、それ以上の意図はありません。両国間は距離があるので元々併合統治は難しかったし、王女が死んだことが光の国に発覚してまた戦になるようだったら、完全に属国にするために再び戦が起き、発覚しなかったらそのまま幽閉していますという対応をするので、大した違いはありません。
暗殺イベントを乗り越えても、能力値が規定よりも低いと本当の幽閉エンドになったり、攻略に失敗かつ力が強ければ兵士、知力が高ければ侍女もしくは家臣として迎えられたりと、エンド分岐もなかなかバラエティーに富んでいます。
ああ、もちろん攻略対象者にも三つずつくらいエンドがありますので、長く楽しめる仕様になっていますよ。フルコンプした「わたし」が言うのですから、間違いがありません。
で、この王女様がプレイヤーとなるのですが、名前はデフォルト名がなくて自分の名前を入れられるようになっているんですよね。
アヤノ……どう見ても日本人の名前です。綾乃か、彩乃かな?
この子も憑依プレー中なのかどうかは分かりませんが、せっかくナマ乙女ゲームをかぶりつきで見られるんですから、楽しまなければ。
私ですか?
私はアリサ・エストラーダという王女付きの女官です。身分としては伯爵令嬢、年は二十二歳。結婚適齢期が十四歳から二十一歳というこの国の令嬢としては行き遅れの部類に入りますね。
一応婚約者はおりまして、今回の王女輿入れを見届けたら光の国へ戻って結婚する約束になっています。
故郷に帰ったら結婚するんだ、なんて完全に死亡フラグですが、暗殺イベントを王女生存で乗り越えないと口封じのために命を狙われますので、強ち的外れとは言えず、王女の教育に力を入れようと思います。
はい、私、サポートキャラ件、教育係というやつなのですよ。勉強によって知力が上がりますが、教えるのは私です。あともう一つ、礼儀作法で魅力と器用が上がりますが、これも私が教えることになっています。
平凡な喪女だった「わたし」と違って、アリサ・エストラーダ伯爵令嬢は、なんというか才色兼備を絵にかいたような超絶美人のできる女性なのですよ。何せステータスがぱねぇですから。
力 999
知力 999
魔力 999
速さ 999
魅力 999
器用 999
のオールカンストです。
王女の身の回りの世話と、教育係件、騎士たちの情報をこっそり教えてくれるアリサは、ゲームの中でも地味ですが美人さんに描かれておりましたし、身を挺して王女を守るシーンもありましたのでできる女性なのだとは思っていましたが、さすがにこれ程とは思っていませんでした。
はっきり言って、私を戦地に送った方がよほど戦力になったのではないかと思われますが、そうはならなかったみたいですね。
暗殺イベントがあるのに落ち着いていられるのは、私が騎士の誰よりも強いからです。これだけ強ければ、命を狙われても返り討ちにできますから。死亡フラグ?何それ美味しいの?状態です。
九歳の王女に十四歳の時から遊び相手兼、女官として仕えてきた私です。可愛がり、慈しんできた記憶がありますし、暗殺イベントでもなるべく王女を守ろうと思いますが……実は五人の騎士たちの中に、ジルエスト国王、本人がいるんです。
王女の利用価値が低いとみなすと、あぶり出した反乱分子を確実に始末するために、王女を殺害して罪をなすりつけたパターンがあったので、騎士たちが敵に回らないとも言えず、さすがに味方と思っている相手が背後から攻撃してきたら守り切れる自信がありませんから、王女には是非とも自力で乗り切ってもらわないと。
王女は普通にかわいらしい人ですけど、ゲームの仕様上、ステータスがオール100からスタートするんですよね。0じゃないのは今まで王女として暮らしてきた下地があるからですけど、これだけでは乗り越えられません。
まあ、RPGモードがあるとはいえ、所詮乙女ゲーム。ステータスアップを地道にこなしていれば、ほぼ失敗することはありません。その辺は教育係である私の腕にかかっておりますし、王女にイベントを起こしていただかないと、「わたし」が楽しめませんから、しっかりお勉強してもらいます。
騎士たちの自己紹介が終わった後、アヤノ王女の後ろを付き従っていた私も、控えめに一礼しました。
「アヤノ王女殿下の女官、アリサと申します。道中の短い間ですが、よろしくお願いいたします」
顔を上げてびっくりしました。全員が私の方を見ていたからです。……うっすら笑みを浮かべて。
あれ?と首を傾げると、無表情になって視線をはずされました。
うん、見間違いだったのでしょうね。だって私は攻略対象外のサポートキャラですし、王女を引き立てるように、敢えてやぼったい服に身を包んで、髪形も顔をなるべく隠すようにしていますからね。大丈夫です、ヨコシマな感情は漏れていません。
五人全員が、この組み合わせは無理だろうと思われた超絶美声の声優さん達が充てていたのです。アーディルの声で確認しましたので間違いがありません。あの声での雑談が聞けるだけでも、ご飯が何杯でも食べられそうですね。
「どうぞアヤノ様、お手を。アリサ殿もどうぞ」
王女はそのままアーディルが。私は、御者台から素早く降りたエルダーが手を取って、馬車までエスコートしてくれました。
エルダーの声優さんが「わたし」は一番好きなんですよねー。少年と、青年の中間くらいの、でも落ち着いた感じの声で、本当に声だけでうっとりしてしまいます。表情には出しませんけど。
馬車に乗る直前、アヤノ王女は後ろを振り返って、王や王妃に今生の別れに手を小さく振りました。私も後ろを振り返ります。王の脇に控えているのが私の父、エストラーダ伯爵です。目が合うと、小さく頷いたので、私も合図を返しました。
さあ、ゲームのスタートです!
騎士全員が、アリサが王女で、アヤノが身代りの女官だと思っています。イベントを起こすためのステータスは十分なので、本物の王女そっちのけで、これから怒涛のイベントラッシュが始まります(笑)
ハーレムエンドは、男たちがアリサを巡って殺し合いを始めますので難しいかも。ある意味、傾城というか傾国ですね。