その石のことあまりよく知らないが、
「いいこととはなんだ」
手短に言え。とでも言うかのように、フロマージュがビラールに聞きなおす。
もし、その“いいこと”というのが、先程のパーティーの時に聞いた、この町が水没していた。という情報なら、フロマージュは容赦しない。と誓う。
「・・・この町はその昔、魔物によって水没したらしい」
・・・フロマージュはピキリと、おでこの血管を浮かせた。
「ビラール、それは先程、村人に聞いた」
言葉をためて、知っている情報を教えられた時の虚しさといえば、これよりガッカリすることはないだろう。
期待はずれにもほどがある。
フロマージュがそう思った瞬間、
「んじゃ、不思議にこの町に、魔物が集まっているってのも聞いたか?」
「あぁ、聞いた」
すでに知っている話。・・・だったはずが、
「なんで、集まってるか、ならどうだ」
「・・・・なんで集まってるか・・?」
先程の話だと、村人は、あまり深読みはするな。とだけ言って、
なぜここへ集まるのか。ということを話していなかった。
今まで、ビラールの言葉に間髪いれず答えていたフロマージュが、その問いかけにだけ言葉を詰まらせたので、
ビラールは、してやったり。という表情を浮かべる。
「お前は知っているのか?」
そんな顔をされたのに、腹を立てずに、冷静に対応するフロマージュ。
そんな彼には、冷静沈着という言葉がお似合いだ。
「知らなかったら、こんな話できねぇだろ?」
「・・・・・そうだな」
ビラールは、若干のドヤ顔をやめずに、フロマージュの問いに答えた。
フロマージュはそれに、ただ、同意するだけで、新たな発言はしなかった。
「お前達に、利益がある情報かはわかんねぇが、・・・まぁ、これは噂だ。真剣に聞かなくてもいいぜ」
軽い気持ちで語りだすビラールは、
フロマージュが反論できないほどの情報かと思いきや、そうでもなさそうに言い、ハードルを自分で下げる。
「・・・お前ら、天海石・・・っての、知ってるか?」
「「!!!!」」
天海石と聞いて、反応しないわけがない二人は、目を見開き、ビラールの次の言葉を待った。
ビラールも、そんな二人の反応に気がついたのか、
話すのに、少しばかりハードルを感じなくなっていた。
「天海石の力に、さほど詳しくはなぇけど、その石の力が原因で、この島に魔物がいるって噂だ」
ハードルは感じずとも、それでも噂だということを主張した。
「噂・・・・」
レイもそれにゴクリと息をのんだ。
噂とは言え、“あの”天海石の話を聞くことができたのだ。
「ビラール、他にその石のことで知っていることはあるか?」
食い気味にそう尋ねるフロマージュ。
「・・・いや、残念だけど、俺が知ってるのは、その石のせいで、この町に魔物が集まってるってことだけだ」
さほど残念がっていないように見えるビラール。
その言葉は言葉だけのようだ。
「・・・天海石が・・この町に・・・・・?」
噂とは言え、レイもやはり食いつく。
・・・・なぜ、ここまで天海石という石に興味を持ち、話を聞きたがるのか、と言うと、
レイとビラールは、簡単に言えば、その天海石を集めるために、自分達の島を離れ、旅をすると決意したのだ。
だから、天海石という、目的物の名前を聞くと、反応するに決まっている。
「・・・・・・・」
だが、フロマージュは、ビラールの言った言葉、すべてを鵜呑みにはしなかった。
それが利口な聞き手というものだ。
「天海石の話は知らねぇけど、お前らと同じく、それを追ってる奴らなら知ってるぜ」
「どいつだ」
フロマージュが、間もおかずに、ビラールにそう尋ねる。
「つ、ついてこいよ」
ソイツらがいるところに連れて行ってやる。と、
ビラールがそう言うので、素直についていこうと、レイはビラールの背中を追いかけた。
フロマージュは先程貰ったお金を、律儀に払っていた。
「ほら、もうすぐだ」
店を出て、店が並んでいる通りからも、姿を消し、歩く一行。
喉やお腹は、カラカラでもなければ、空いているわけでもない。
あいまいな中途半端な感覚だ。
そんな感覚を味わいつつ、ビラールが足を止めたので、レイ達も足をとめた。
「ここに集まっている奴ら、全員その石のこと知ってるぜ」
レイとフロマージュがビラールに連れて来られ、
今目の前に拡げられている光景は、まさに格闘の大会そのものだった。