いいことを教えてやるよ。
「勇者さまが参られたぞ!」
皆の者、道を開けよ!とは言わないものの、そう言ってもおかしくないほどの招かれ方に、フロマージュはどう反応していいものやら・・・と、頬をポリポリとかく。
「勇者さまだ!」
そんな中、騒いでいる大人達に混ざり、子供も数人、人の群れの中にいるのを、フロマージュは見逃すことはなかった。
「・・・・・」
お金をもらうためだけに魔物を倒していただけだが、
子供の、こういう、憧れじみた眼差しを見てしまうと、なんとも、そんな汚い考えが薄れていくように感じた。
「・・・あ、あの、ここはいつもこうなんですか?」
フロマージュについていた人々が離れ、フロマージュ自身はようやく一段落つき、椅子に腰かけることができた。
その際に、隣にいた村人にそう尋ねた。
「あぁ、この町はいつもこんな感じなんだ」
街の名前はフォンテーネというらしい。
昔、この町は、泉の中にあったらしく、この町の周りの取り囲むような町が本当の町だったらしい。
だが、そのドーナツ型の町は、魔物によって、中央の今となってはフォンテ―ネと呼ばれる泉にすべて水没したとか。
だが、そこに勇者がやってきて、魔物を倒し、魔物の呪いを解いたそうだ。
そして、新たな、勇者が作り出した町、フォンテ―ネができたとか。
「・・・それからというもの、この町で魔物を倒すものがいるとするなら、勇者と崇めるのが、この町の伝統って訳なんだ」
ペラペラと、簡単にこの町を解説する彼。
そんな彼も、こうして、勇者として崇められたという。
「この町ってね、思った以上に魔物が隠れてるんだよ」
それはもう、数えきれないほどに。・・・と告げる彼。
そして、その発言に、思い当たる点が一つあった。
それは、【この町が毎日お祭り騒ぎ】だということ。
「・・・・隠れている・・・か」
毎日がお祭り騒ぎで、毎日こうして、誰かが“勇者さま”と崇められているのなら、この町には相当な数の魔物がいるに違いない。
フロマージュはいつもの無表情を、さらに険しく、仏頂面になるまで、顎に手を添え、考え込んだ。
「聞いた話によると、この町の人間の半分くらいが、魔物なんじゃないかってよ」
「・・・この町の人々がか?」
「ただの噂だけどな」
フロマージュの眉がピクリと動いたのを見た彼は、その噂について、フロマージュが納得してくれるであろう、話をする。
「だって考えてみろよ、この町は一度、水没してなくなってるんだぜ?毎日お祭り騒ぎできるほど、人が集まると思うか?」
「・・・・」
確かに、一度、魔物によって水没させられた町にしては、人が集まりすぎているきがする。
本来ならば、そんなことがあった町ならば、怖がって、あまり近づかないだろう。
なのに、不自然な人の集まり。
フロマージュが彼の推測を否定できないでいると、今まで近くにいた彼が、
「ま、そんな深く考えず、この町は金に困ったときに来る町にすりゃいいさ。なんせ、低級の魔物を倒しただけで賞金が貰えるんだからな!」
深く考えさせたのは、どこのどいつだ。
と、思ってしまうような気分になってしまったものの、フロマージュは
「そうだな」
と、彼の意見に同意する言葉を送った。
そして、フロマージュは、ワイワイガヤガヤと騒いでいるところに、先を急いでいるので。
と、ここを後にしようとする。
「そーかい、旅人さんは忙しいねぇ、」
そういうと、袋に詰め込まれた金貨を惜しげもなく、フロマージュに差し出す。
「ありがとうございます」
フロマージュはそれに手を差し伸べ受け取ると、その場から立ち去った。
―――――――――――――
「・・・・で、なんで、こんなにも皿が大量に積み上げられているんだ?」
「い、いや・・・その・・・・・」
実際、皿がそこに積み上げられているのだから、今は何を言っても、言い訳にしかならない。
だからレイは、ビラールと共に、黙りこくっている。
「・・・まぁ、いい、金は沢山貰えたからな」
はい。と、机の上に置かれる、ジャラリと音を鳴らせる、少し大きな袋。
「ま、まさか、こんなにもらったの!?」
「あぁ、いっぱい倒したからな」
サラリと、言ってのける彼に、レイはやっぱり心配なんてしなくてよかったんだ。と心でつぶやく。
「じゃあ、祝福もされたんじゃねぇか?」
ビラールはこの町のことを、少しは知っているかのように、そう言った。
「・・・お前はこの町で生まれたのではないだろう?
なのになぜ、何か知ったような顔をしている?」
「この町は有名だからだよ」
ビラールはそう言うと、口角を上げ、フッと息を出した。
「・・・で、この町のことを知ったお前に、生き倒れている俺を助けてくれたお礼に、いいことを教えてやる」
「・・・・・いいこと?」
話を変え、フロマージュの気を引くビラール。
「あぁ、いいことだ」
不敵に笑う、ビラールに、少しだけ雰囲気のある、黒いオーラが漂った。