俺もそれ、手伝います。
「ビラールだ。よろしくな、お二人さん」
ニカッと笑う、ビラールと名乗った青年。
その口の回りには、先程までものを食べていた。という、形跡があった。
「・・・ビラール、口元が汚れているぞ」
フォークを持ち、再び食べ物を口へはこんだビラールの口元をフキンで拭いてあげるフロマージュ。
それはまるで、親と子のようだ。
「・・・(ゴク)んっ!自分で拭ける!」
そう言うと、フロマージュからフキンをかっさらう、ビラール。
自分は拭いてもらうような年齢ではない。と、内心、少し苛立っているようだ。
「だいたい、俺は・・・!」
ビラールが自分の年齢の話をしようとしたら、店の外から大きな声が聞こえてきた。
気になって、レイが店の外へと、飛び出した。
もちろん、スパゲッティがのった皿を持ったまま。
「そっちへ行ったぞ!」
その大声はやけに近く、数百メートルしか離れていなかった。
レイの後を追いかけ、フロマージュも外へ行く。
と、次の瞬間。
ーーーーーシュッ
何かが、すごい勢いで通りすぎるのがわかった。
レイはそれに驚き、目を見開き、硬直していたが、
フロマージュは、それが通りすぎると、それが移動した方向へ首を向けた。
「・・・な、なんだったの?」
レイがまばたきする頃には、もう、それは通りすぎた後で、
どこか遠くの南の方へ行ってしまった。
「チッ・・・逃がしたか・・」
そう呟いたのは、さっきのアレを追っていた者。
フロマージュはすかさず、その人に、先程のアレがなんなのかを聞くことにし、その人に声をかけた。
「さっきのアレはあの山から降りてきた化け物だ」
「「化け物・・・?」」
レイとフロマージュは声をそろえてもう一度聞き返した。
なんでも、この町は遠くに見える山に化け物が住み着いているらしい。
ときどき、その化け物がおりてきては、この町を荒らし、姿を消すという。
「・・・レイ・・」
ちょっと。と言うかのように、フロマージュはレイを自分の元へと引き寄せる。
皿はもう既に食材をのせていなくなっていたので、
レイはそれを盾に、フロマージュのひそひそ話を聞くことにした。
「彼は、あの山に化け物がいると言っていたが、俺は何の妖気も感じない。それに、彼は多分素人だ」
彼に聞こえないように配慮したのは、少しの気遣いだ。
山はそれほど大きな山ではないし、何か悪いSランク級の魔物がいるわけではなさそうで、
フロマージュが言ったように、妖気が感じないほどの奴しかいないのだろう。と、予測ができた。
「・・・じゃあ、この話、聞かなかったことにして、早くテーブル戻ろうよ」
レイなりに、遠慮がちに言ったつもりのセリフ。
たいらげてしまった皿を悲しそうに見つめる。
「じゃあ、レイは先に戻ってて」
フロマージュのあまり動かない顔の筋肉がかすかに動いた気がする。
これは優しく笑っているのか、はたまた、どす黒く怒っているのか、一般の人間では、わからないレベルだったが、
「わかった~」
レイには、あれが、子供を送り去る、母親の眼差しだということに気づいていた。
さすがは、レイとフロマージュの仲だ。
レイが店に戻り、椅子に座り、テーブルの食べ物を口にするのを確認すると、フロマージュは、先程のすごいスピードで通り過ぎたモノを追いかけている者に、再度、質問をする。
「なぜ、あれを追う?」
この言葉の意味は、どうして、そんな低級な魔物を相手にするんだ?という意味でもあり、裏を返せば、どうして、あんな低級な魔物を一発で仕留めきれず、逃がしてしまい、追いかけているのだ?
という、二つの意味にも捉えられる。
「なぜって・・・この町のルールを知らないのかい?兄ちゃん」
「ルール?」
この町のルールや規則と言ったものを、フロマージュが知るわけがない。
なぜなら、ここにたどり着いたのは、ついさっきなのだから。
「魔物を仕留めてくれたら、金が手に入るのさ」
彼はさらに、丁寧にことを説明してくれた。
金になる魔物は、町にでてきた魔物。
間違っても、森の中で倒してはならない。なぜなら、森の中で魔物と戦っている間に、他の魔物が、この森から離れようとして、町にでてしまう恐れがあるから。
「・・・・・金」
フロマージュの目が輝いた。
生き倒れたビラールを救い、おまけに、今、食べ物まで与えている。
もちろん、フロマージュは、お金に困っていた。
こんな話、願ってもない話だ。
「・・・それ俺も、手伝います」