百匹のアヒル――あるいは経済学的な寓話
現在の円発行の仕組は、こうなっている。
政府が新規国債を発行すると、公募入札で金融機関(民間銀行・証券会社・保険会社)等が購入する。
その後、金融機関等は保有する国債を公開市場(金融機関等の間で国債が売買される市場)で売り出す。
日本銀行はそこで国債を買い取る(=国債と引換えに金融機関等の日銀当座預金を増やす)。
金融機関等が日銀当座預金を引出すときに日本銀行券が発行される。
これは根本的にはデフレ圧力をともない、国の財政を悪化させる仕組である。
以下、簡単な思考実験で説明してみたい。
プールに百匹のアヒルのおもちゃを放ち、同時に大きな桶を浮かべる。
百匹のアヒルは円の通貨総量で、たまに流されて行ったりはするが国以外の誰も勝手に増やすことは出来ない。
そして、桶の中が政府・官方(地方自治体等)だ。
国は、翌日に十一匹のアヒルを返すという約束でプールから桶に十匹のアヒルをすくって入れる。これが国債の発行だ。
次に、桶の中の全てのアヒルをプールに放つ。これが財政支出だ。
続いて桶に十一匹のアヒルを入れる。これが徴税。
翌日になった。
桶から十一匹のアヒルをプールに出す。これが国債の償還だ。
続いて、さらに次の日に十二匹のアヒルを返すという約束でプールから十一匹のアヒルを桶に入れる。これが国債の発行だ。
このあと、財政支出→徴税→償還→国債の発行、と延々とループが続く。
政府・官方の国民へのサービスは減らせないので、桶に入れるアヒルはどんどん増えていく。
これが、国債を発行して円を発行するというシステムだ。
もちろんこれは単純化した説明だ。実際には借換国債の発行や、五百円玉以下の硬貨の発行といったプールのアヒルを増やす要因はある。
ただ、硬貨の発行は0.075アヒルといった程度のごく微々たる物で、しかも日銀経由の交付だ。当座預金の支払いを通じてしか民間に供給されない。
現在の国債残高は千三百四十六兆円、マネーストック(M3)は千六百四十一兆円だ。これは、百匹のアヒルのうち四十一匹が桶の中にいる状態だ。
今後、桶の外のアヒルはますます少なくなり、民間にデフレ圧力がかかる。
デフレとは、通貨が希少になりその価値が強くなることだ。
物価は下がる。預金額が大きい人には朗報だろう。
しかし、インフレを前提とした資本主義世界ではデフレは不景気の元だ。
ここでちょっと寄り道をして、なぜ資本主義がインフレを前提としているのかを説明しよう。
金融機関は、企業に融資をして経済を回す。
融資は、将来の返済時に利息を加えて返すことを前提としている。
これによって、企業は支店を増やし、工場を建て、人を雇い、販売・生産・仕入の規模をふくらませる。景気がよくなるのだ。
では、デフレの場合はどうだろう。
借金の利息はゼロパーセント以下にはできない。
金融機関は、企業に融資をしなくなり、ひたすら安全資産である国債を買いまくる。
すると、企業は自分の身を切って借金を返したり給料を払ったりするようになる。
支店を減らし、工場を売り払い、従業員を解雇する。
結果として景気が悪化する。
今の日本は輸入原材料の高騰でインフレになっている。けど、それが安定すればまたデフレの波が押し寄せてくる。
そこで政府紙幣の発行だ。
プールの方にたくさんのアヒルを放つのだ。
方法はいくらでもある。
貧困者への給付、年金の増額、災害への復興支援。
極論すると千三百四十六兆円の政府紙幣を発行して国債を市場から回収すれば、国の財政は一気に健全化する。
だが、それをすると経済への影響が大きい。急激なインフレが進行する。実現は不可能だ。
だが、少しずつ政府紙幣を投入すれば、景気はよくなる。日本の公的年金制度全体の年間支出総額は、五十六兆円。これを全て政府紙幣で支払うと、かなりの財政健全化と民間の景気活性化が見込まれる。
そして、少しでも財政出動しようとすると「財源ガー」と言い出す連中も黙らせられる。
もちろん政府紙幣は禁断の麻薬とも言われる手法だ。しかし、今のシステムのままではいずれ全てのアヒルを桶の中に入れることになりかねない。
今のうちに政府紙幣の発行をはじめないと、おそらく来年には日銀が債務超過を起こす。利上げをしているからだ。
中央銀行が債務超過してもしても倒産しない?
いや、国債を発行して国が借金をするという「円というパイを政府と民間で奪い合う」システムを変えなければ、確実に日本は破綻するのだ。
もちろんこの話は一民間人として内閣府に献策してある(ただし、日銀の債務超過が近いことに気づいたのはそのあとのことだ)。
願わくば、日本国が今後も平和で豊かな国であり続けますように。




