第3話:妖精ティテ
私を乗せた妖精戦闘機は、私の生まれたアルマリン領へと向かっている。
空には星々が瞬き、大きな満月が南中に輝いている。
逆に下を覗くと、黒い闇に塗りつぶされている。まるで吸い込まれそうで、とても…怖い…
『ねえ、操作方法は分かった?』
「はい、操縦桿で向きを操作。左右で回転、上昇したいときは手前に下降したいときは奥に倒すよね?」
『そうそう』
「スロットルは押せば早く、戻せば遅くですね」
『うん、大丈夫そうね。難しいこと、細かいことは私の方でやるから安心してよ』
「先に…着けますか?」
王国の飛行戦隊より前に着かなければ、意味がなくなる。
『向こうは夜明けの到着だと思うから、私たちは3時間前には着けるはずよ
…ただ』
「どうしたの?」
『飛ぶことに貴方の生命力を使っているから、距離が長ければ長いだけ貴方の負担が増えるわ』
「……いい、かまわないわ、私の命が尽きても、お父様に伝えないといけない。
妖精さんお願い」
『…無理はしないでよ。あと私の名前はティテ』
「私の名前はスフィアルィーゼ。スフィアと呼んでください」
『よろしく』
「…あの、ティテはなんで、助けを求めていたの?」
『…南の森って知ってる?』
「あ、えーと、幾つも伝説や伝承がある。”迷いの森"のこと?」
『貴方達はそう呼んでるのね。
そこはね、私たちの住む妖精の国に繋がる森』
「私の知っている伝説だと」
『うん』
「迷って出られなくなるとか、出てきた人は何年も経っていたとか、財宝やお嫁さんを連れて戻った話を、小さな頃に聞かせてもらったわ」
『それは、妖精の国を訪れた人たちのお話だわ』
ティテは弾むような声になった。
だけど、その後に続く言葉は衝撃的だった。
『あのね、その森を焼かれちゃったの。
スフィア位の女の子がいっぱい兵士を連れてきて、森に火を放ったの…』
私は、思わず操縦桿から手を離して口元を抑えてしまった。
『あ。スフィア、ダメ―!』
ティテが叫ぶと、まるで左側に巨大な重りでも付いたかのように、ガクンと機体が傾き、とたんに重い機首が下を向いて落ち始めた。
「きぃゃあーーー!」
『ス、スフィア!操縦桿、操縦桿!』
ティテの叫びに、私は急いで操縦桿にしがみつく。
『回転を止めてーー、機首を上げてーーー!』
目の前の高度計と速度計の針が、狂ったようにクルクルと回り続けている。
視界は闇へと吸い込まれ、どこが空で、どこが地上かも分からない。
『……落ち着いて!スフィア。足を、ラダーを踏ん張って。まずは回転を止めてから、ゆっくり操縦桿を引くのー!』
操縦桿が重い、だけどゆっくり左右に操作して回転を止めるように力を入れる、手応えが戻ってきた。そこから機首を上げると暴れていた計器の回転が穏やかになる。ようやく、窓の向こうに頼りない水平線が戻ってきた。
『あ、危ないわよ。スフィア……』
「ご、ごめんなさい…こ、怖かった…」
心臓がドキドキしていて、歯が嚙み合わない、顔が引き攣ってしまう。
涙まで出てきた。
「でも…」
『でも?』
「今のでなんか分かった気がするわ」
『?』
「すこしだけ、良い?」
『え、な…にぃーーー!』
私は、スロットルを押し込むと、機体を加速させる。背中がどんどん席に押し付けられる。
『スフィアーー。ど、どうしたのーー?』
一気に上昇させると、地平線が丸いことに気づく。満天の星空が迎えてくれる。そこから操縦桿を押し込んで降下させる。
高度を利用して速度に変換すると、速度がグングン上がっていく。
『速い、速いわよ!スフィア!ヤダー!どうしちゃったのーー!』
そこから操縦桿を半分ほど引いたままにすると、上から押し付けられるような感覚を受ける。機体は弧を描いて天と地が逆さになった。
そこでロールをして水平にすると、右に90度傾ける。
左の翼が天を、右の翼が地を指し示す。
右足に力を入れ再度操縦桿を引いて水平に弧の軌跡を描く。計器が南西を示したときに水平飛行に戻した。
「す、すごいわ、私に翼が生えたみたい!」
『な、なに、なんなの?どうしちゃったのよー?』
「さっきのことで、高さが速さに、速さが高さになるって分かったの」
『え、なんで?あれでわかったの?』
「はい」
自分でも興奮しているのが分かる。生まれて初めての感覚かもしれない。
『操縦桿を半分だけ引いたのは?』
首を傾げて思い出す
「何となく、危ないかなって」
私はこんな時なのに笑顔になっていた。
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