第2話:飛翔
『助けて』
「助けてほしいのは、私も同じ」
『助けて』
「私も、助けて欲しい」
『なら、ここに来て』
声がそう告げると。物凄い強風が辺りに吹き付けた。衛兵も私も、立っていられない。
「何?」
私は長い髪を、抑えながら辺りを見回した。
ロイド様や衛兵は、地に伏せ、輸送機は傾いてしまった。
声のした飛行機と私だけが、風の影響がまだ少ないようだ。
来て。
私は、声に従った。
「スフィアルィーゼ様!」
「こら!何処へゆく!」
「まて!そこでとまれ」
私は、何故か風の少ない道が分かり、飛行機へと向かう。白い機体に胴体に赤いライン。翼と胴体には太陽の絵が描かれていた。
垂直に立った羽には「キ44-III」と描かれている。私には文字なのか記号なのかもわからない。
私はハシゴが翼に掛かっていたので、それを登る。水滴型のガラス窓が後方にスライドしていて、人が一人入れるような穴が空いている。穴の両側は扉のように外側に倒れていて、中には椅子が置かれていた。
私は座ろうと思って、穴と自分のドレスを見下す。 クリノリンという骨組みが、スカートを まるで傘のように広げている。 舞踏会では優雅だが、この飛行機の中に入るには 完全に不向きだった。
「これじゃあ、乗れないわ」
『…両手を上げて』
私は指示に従うと…
風が吹き抜ける感覚を覚えると、鋭利な刃物で切られたかのように、スカートがストンと下に落ちてしまった。
「き、きゃあ」
『早く乗って』
私は飛行機を睨みつつ、必死にコクピットへ身を滑り込ませた。
狭い。
座った前には、見たこともない目のような何かが、たくさんこちらを見ている感覚に陥る。
『いうとおりに、操作してちょうだい』
すぐ耳元で声が響いた。
『まず、左側の扉を閉じて。
紐があるから引っぱるの。閉じたら紐を引っ掛けて固定してね』
私は左側にあった紐を引っ張って、
金属の小さな扉を“パタン”と閉じた。
内部のロックが“カチリ”と噛み合う。
『次に右側も。両方閉じないと、わたしは走れません』
右側の扉も閉じると、
コクピットは完全に“筒”のような密閉空間になった。
『最後に、後ろのガラス窓を。前のガラス窓までスライドさせて。
重いけど頑張るのよ』
私は震える腕でガラス窓を前へ引き寄せる。
“ガコン”と重い音が響き、
声が優しく告げた。
『ロックレバーを下げて……はい、閉鎖完了』
外界の音が消え、
ただ声だけが残った。
『あなたの生命力を、少しだけ分けてね。
痛みはないから。呼吸を整えて』
深く息を吸うと、
胸の奥に温かいものが流れ込む。
それは不思議なシンパシー。
ただ、心と心が触れ合うような感覚。
『……はい、同調できました。
あなたの鼓動、確かに受け取ったわ。
素敵な波長ね。
私の声が届いた理由が分かったわ
とっても私たちに近い…』
「あなたは…妖精なのですか?」
『南の森に住んでいたの…でも今は、この鉄の体に閉じ込められている…』
私の前の、目のように見えたモノがピクリと動き出す。
『それは計器盤、わたしの状態を知るための機械よ』
計器盤の針が、ゆっくりと立ち上がる。
『左手のスロットルを、ほんの少しだけ前へ。
わたしが力を変換します』
左のレバーに淡い光が灯って教えてくれる。レバーを押すと、機体全体が“ふわり”と震えた。
金属の唸りではなく、
まるで眠っていた巨鳥が羽根を広げるような、柔らかな振動。
『……大丈夫。わたしの仲間が目覚めました。
あなたを守り、わたしを守るために」
『操縦桿を握って。
前後、左右……ゆっくりね』
光が導いてくれる。私が動かすたび、 飛行機が、その動きを受け止めるように反応する。
『舵は生きています。
あなたの手から優しさが伝わってくる』
外では、暴風の中、追手の怒号が近づいていた。
ロイド様が、銃でこちらを狙う兵士を必死に止めてくれているように見える。
「ロイド様」
後で、罪に問われなければ良いのだけれど…
『もう時間がないみたい。
スロットルを、ゆっくり前へ。
わたしが支えるわ』
私が押し込むと、前で回転している羽が風を捉え、振動が大きくなる。
『ブレーキを解除して』
光が赤いレバーを示し、私はそれを押し込む。
機体は滑らかに前へ動き出した。
草を押し分け、前へと進む。
『大丈夫。あなたとわたしなら、逃げ切れる』
背後で、発砲音がした。
しかし、飛行機も私も止まらない。
『ラダーで向きを変えて』
光を探すが見当たらない。
「わからないわ…どこ?」
『足よ』
足元に足を置くような板がついていた、私はそれに足を置く、右を踏めば右に、左を踏めば左に向きが変わった。
月明りにも目の前が開けているとわかる場所まで進んだ。
『スロットルを一番奥まで押し込むのよ』
「はい」
私は返事と共に。スロットルを最大まで押し込んだ。
私の生命力と妖精の力が重なり、
機体は加速を始める。
背中が後ろに押し付けられる。
機体の震えと共に景色が前から後ろに流星のように流れ始める。
「こんなに早く流れる景色など見たことがないわ」
こんな状況なのに笑顔がこぼれてしまう。
『操縦桿をゆっくり、自分の方に引いて』
私はゆっくりと操縦桿を引いた、今まで感じたことないような浮遊感が身を包む。
そう感じた瞬間、機体が右へと傾いた。
『右回転の癖よ。水平になるように左エルロンを…操縦桿を左に倒して』
妖精の声に従って、私は操縦桿をそっと左に倒す。
金属の翼が水平を取り戻し、空がまっすぐに広がった。
目の前には月しか見えない、横を見ると斜めに地上から離れていくのがわかる。
城が、木々が見えるが、その姿がどんどん下へと消えていく。
「私、空にいるの?」
『そう、空、私たちのテリトリーだったところ』
「妖精さん、私、私の家に戻りたいの。
貴方と同じ、飛行機がたくさん私の家に、領地に向かって…う…ううう」
私は、舞踏会からの出来事を振り返り涙が流れ出す。
『一緒に逃げるんじゃないの?』
「大事な人が、大事な人たちがいっぱいいるの。
このままだと、みんな殺されてしまう…」
『………わかった。一緒に行きましょう』
「ありがとう」
父と母、領民たちを救いたい。
ロイド様も心配だ。
王子も本当は何かあったのかもしれない…
夜空に翼の先端から発生した白いラインを王都に描いて、私と妖精の旅が始まった。
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