第1話:糾弾
「侯爵令嬢スフィアルィーゼよ、お前との婚約は破棄する!」
新年を祝う舞踏会が、私の人生を終わらせた。 先程まで腕を組んでいた王子が、突然私から腕を振りほどき、別の女の肩に手を置いた。 華やかな会場が、一瞬で凍りつく。
「……」
驚きに声が出ない。糾弾されたのは、流れる金髪に、蒼眼、今日は深紅のドレス姿の私、スフィアルィーゼ・アルマリン。今の今まで王子の婚約者でした…
「何か言ったらどうだ、申し開きもしないのか?」
新年の挨拶で集まった数多の貴族の前で。
国賓までいる場で。
国の恥とも言える糾弾を、王子は私に向けて放った。
「子爵令嬢ソニアリシルへの殺人未遂、国外追放の処分など甘いが、我が父王の裁定しかと受け止めるが良い」
ここは、大陸の端にあって、かつては海洋貿易を中心に隆盛を誇った。歴史のあるブライドル王国。
「殿下、何者かに毒を盛られ死の淵にあったのは私なのですが」
「そんな見え透いた嘘、誰が信じるものか!」
それは…耳にも届いているだろうに一回も見舞いに来てくれなかったせい…
昔から殿下は私の話など聞いてくれたことがない。今抗弁しても立場が悪くなることはあっても、決して好転しないのが見えている。
「お前の家門アルマリン侯爵家も取り潰しになる、領地は王預りとなる。その後、ソニアリシル嬢の家に下賜される。ソニアリシル嬢の家は陞爵し、私と婚約する運びだ」
「待ってください、そんなことをすれば、国を割った戦いとなります」
(高位貴族とは王が選んだのではない。
部族の王が自治貴族となり、王を選んだのだから。
王子が利己的な理由で領地を奪うなど、許されない)
そんなことすら解らぬ者など、この世にはいないはずなのに…
「私のことはかまいません、ですが、我がアルマリン領へのことはお考え直し下さい」
王子の手が置かれた、ソニアリシル嬢が気に掛かる。
このソニアリシル嬢は理解していないのだろうか?
今思えば、ソニアリシル嬢が、私や王子が通う王立学校に今年入学してきたときから、私の周りがおかしくなってしまった気がする。
明るいブロンズカラーの長い髪に、ダークブルーの瞳。愛らしいとみんなは言っているが、私は怖い印象を受けている。ブロンドでブルーアイの王子の横でほくそ笑んでいるように見える。
ソニアリシル嬢が現れるまでは王子も、今ほどではなかった。
王子の周りの友人もみんな私に優しかった。
小さな頃に婚約させられた私は、王様も良くかわいがってくれた。
いつの間にか私がいた場所に、ソニアリシル嬢が入り込み。
一人また一人と私から離れて行ってしまったような気がする。
気づいたら私の味方がいなくなっていた。
「既に、アルマリン領には、王軍が向かっている」
(そんな…)
病に伏せた母のため、父もアルマリン領にいる、王都には私だけ。このままでは父も母も危ない。こんな奇襲のようなことをされては、対応することは難しいわ。
王子はベランダへ続く窓を開け放つと、空を指し示した。
この夜空に輝く大きな月を横切る、大きな鳥のような影が幾つも見える。まるで月を隠すかのように…
「で、殿下…あれは……」
私は口を抑え震える声で、王子に尋ねる。
まさかそんな、そんな事するはずないと思いたかった。
「あれは、王国が誇る、飛行戦隊。
遂に手に入れた遺跡戦闘機ファルコンの部隊だ。
時代が海洋貿易から航空貿易に移り変わり。
他国に遅れをとったために、我が王国は隆盛を失ってしまった。
だが、これからは違う。ソニアリシル嬢がこの国に眠る遺跡と、動かすためのより強力な妖精を封印する手段を教えてくれた。
これからは我らがまた世界に君臨するのだ」
「何をなさるおつもりなのですか、殿下。馬鹿なことはおやめください」
「もう、お前は不要なのだ、さっさと去るがよい。
衛兵!」
私は短槍を持った四人の衛兵に周りを囲まれ、声も発せられなくなった。
綺羅びやかな舞踏会の貴族たちの哀れみと憐憫の混じった視線の中、会場から連れ出された。
私が廊下を進む横を、他国の出席者が何人も駆け抜けていく。自国への報告だろう。
王子の言葉はそれだけの内容であった。
あの場であのような発言と行動。今の世界情勢でただで済むとは思えない。
「スフィアルィーゼ様」
衛兵の一人は、見知った相手だった。
「ロイド様」
昨年学校を卒業された伯爵子息のロイド様。
在校中は良くしてくれた方だ。美丈夫で貴族令嬢からも人気が高かった。
「学校で何があったのですか?」
「私にも…何故こうなったのかわからないのです」
「何かがおかしい、王子をはじめ、貴方を見る周りのものの目に憎悪のようなものが浮かんでいた気がする」
「憎悪?」
私が何をしたというの…
私は、城からも連れ出され、馬車で先程見た戦闘機というものが数多く置かれた広い場所に連れて行かれた。
「ここは、どこですか」
「ここは王軍が新たに建造した飛行場です。
気の毒ですが、ここからスフィアルィーゼ様には、輸送機で国外へと追放するように言われています」
私はそういったロイド様を見つめるしか無かった。
「今の私にもっと力があれば…」下唇を嚙んで悔しそうにしてくれる。
「お気に病まないでください」
王が放った命令ならば、従うしかない。
馬車から降ろされると、輸送機へと促される。
私の頭の中は、何故こんなことにという言葉が繰り返されていた。私の話など聞いて貰えないが、王子と特に仲が悪いわけでもなかった。
小さなころに、決まった婚約だった。
嬉しさと共に、それに見合う教養と作法を一生懸命覚えた。
歴史、経済、地理、算術、外交、軍事…「こんなのいるの?」みたいなものまで様々に。
もし私に至らぬことがあったなら言って欲しかったと思う。
それがとても悲しい。
父と母、領民たちも心配だ。もし、私のせいでこんなことになったのなら。この命でも足りない罪だ…
一歩一歩連れられて、輸送機というものに乗せられそうになったとき、声が聞こえた、助けてというか細い声。
その瞬間、胸の奥が張り裂けるような痛みを感じた。
それは、追放の恐怖とも、悲しみとも違う痛みだった。
まるで、私が体中を剣で刺し貫かれたような、心が引き裂かれたような痛み。
私は身を捩り胸を抑えた。呼吸が整わない。
視線を巡らせると、輸送機の裏に他の飛行機に比べて、とても小さな飛行機があった。
私にはそこから声が聞こえてきた気がした。
月に照らされた白銀の機体は、淡く輝き、気品を感じる。
でも、親から引き離された子供のように、とても寂しそうに見えた。
今の私のように…
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