【SS】未来から来た息子
マー君、大丈夫?
玄関を出て行くランドセルの小さな背中に問いかける。
うん。との答えを残して玄関は静けさを取り戻した。最近、小学生になったばかりの息子の元気がないようだ。いじめられてやしないか。どうして落ち込んでいるのか。気がかりだった。
考えながら玄関から居間へ戻って来たけれど、ドアを開ける音がして慌てて廊下に戻る。するとそこには、小学校へ行ったはずの息子が大人の姿で玄関に立っていた。
ただいま母さん。
大人の息子はどこか緊張した様子である。
マー君、その格好どうしたの?
彼は特殊な姿をしていた。全身にピッタリとフィットした青い服。赤いパンツに胸には英語のロゴ、マントを羽織っている姿はまるで洋画のスーパーマンを真似ているようだった。
戸惑う私を安心させるかのように息子は少し笑ってみせた。
今からちょうど二十年後に宇宙からの侵略者が現れて、みなで戦ってるんだ。
あなた未来から来たの?
うん。二十年よりもっと先から。ニッコリと笑うと前歯が欠けているのが見えた。歯は大切にしなさいと口を酸っぱくして言っているのに。
ヒゲが少し生えていてそんな前歯で目元はスキーヤーがつけてるような大きなゴーグルで覆われている。肉襦袢のような少し不自然な筋肉のつき方をしている。アメコミヒーローのような筋肉質の肉体に丸い優しい顔が乗っている。
俺、お腹空いちゃった。
そうなのね。じゃあ早く上がりなさい。
彼はブーツを脱いでそろえ私と居間へ。テーブルの定位置に彼は自然と座る。普段の椅子がずいぶん小さく古く見えた。小学生の彼はどちらかと言うと小柄な子供だが、未来の彼はこんなにも背が高い。
ああ、あなた大きくなったのね。母さんのご飯が美味しいからたくさん食べちゃうんだ。あらまあ嬉しい。ああ、あなた…大きくなれたんだねえ…。
未来の息子はたくさんこれからの話をしてくれた。各地で戦争が始まるとか、地球上の緑が失われているとか、宇宙人は人と似た姿をしているらしいとか、そんな未来の話だ。
彼のいる未来に多分私はいないと思う以上に彼は今から戦場に行くのか、どれほど危険なのか恐ろしくて聞けなかった。
私があなたをマモルと名付けたせいであなたは誰かや何かを守ろうとして戻れないような旅に出てしまうのではないか。
急きょ作ったオニギリと残っていたサラダやコロッケを平らげると彼は立ち上がった。そろそろ行くよ。
まあまあ、ねえ、そんな焦らなくてもいいじゃない。
うん。でもね。それ以上を彼は言わなかった。今朝、子供の彼にそうしたように玄関まで出てその背を見送る。彼は一度振り返り、行って来ますと言うとドアの向こうへ去って行った。
すると入れ替わるかのようにドアが開きランドセルを背負った小学生の彼が現れた。
途端に全身を電気が駆け抜けるような衝撃を覚え弾けるように彼に飛びついた。
お母さんどうしたの?
腕の中で身じろぎする彼をもっと強く抱きしめる。ずっとこうして腕の中に彼をとどめておきたい。
戸惑う彼の向こう、半分開いたままのドアの向こう夕焼けの空がやけに赤くて遠くて恐ろしかった。あの炎の中に旅立つしかなかった未来から息子は来た。




