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『黒い高塔』

四人は二台のバイクにそれぞれ二人乗りでまたがり、グレイシティー中心都市の荒廃した通りを黙々と走り続けていた。

空には薄暗い雲が低く垂れ始め、都市全体を無言の圧力で包み込んでいる。

高層ビル群はすでに朽ちかけ、ビルのすき間を風がうなりを上げて吹き抜けていく。舗装が剥がれた道路の隅からはくすんだ緑色の雑草があちこちから突き出し、無人の街は生きているのか死んでいるのか、判然としなかった。

「全く見つからないね……」

いちごアイスがぼそりと呟いた。

錆びた案内板や折れかけた信号機、倒れたまま放置された車が、まるでこの都市の時間を止めたかのようだった。交差点に差し掛かっても、誰もいない。光ひとつなく、窓の灯も、車のヘッドライトも、通行人の気配すら存在しなかった。

都市の中心に近づいているはずなのに、音すらほとんどなかった。聞こえるのは、彼女たちのバイクのエンジン音と、乾いた風が看板を鳴らす音だけだ。

「にゃー、まるで亡霊の都市みたいだにゃ……」

ミーナが目を細めながら、遠くに立つ濃い灰色に染まった建物を見つめてつぶやいた。

道は崩れ、通れる場所も限られ、何度も引き返さなければならなかった。陽はとっくに傾いており、視界もどんどん不鮮明になっていく。

「このままだと、夜になるね。どうする……?」

ドラミンゴが隣で走るバイクから声をかける。

ミーナが短く頷き、やがて彼女たちは通りに面した古びた廃マンションに入ることにした。外観こそまだ形を保っていたが、中は酷い有様だった。

割れた窓から入り込む風に、埃がふわりと舞い、壁のそこかしこにはスプレーの落書きがびっしり。床はひび割れていて、長年の無人状態を物語っていた。

「まるで十年以上、人が入ってないかのようにゃ~……」

ミーナが、指先で積もった埃をなぞってつぶやく。

各々、大きなリュックから簡易なマットやブランケットを取り出し、一階の部屋の隅で横になった。携帯食を分け合いながら、わずかな談笑の後に灯りを落とし、やがて静寂が訪れる。

──深い夜。日をまたぐ頃。

いちごアイスは、ふと目を覚ました。

「ギィィィィ……」

金属を軋ませるような甲高い悲鳴が聞こえる。脳の奥を直接掻きむしるような声はひどく恐ろしく、心を震えさせる。

割れた小さな窓から遠い夜空を見上げると、闇の中にうっすらと飛ぶ魔物の群れが見えた。

……なに、あれ……

唇が震えていた。手も、足も。自分でもわかる。全身が凍りついている。

体温が下がっていく。喉の奥が詰まったように苦しい。

だが、声が出せない。動けない。この魔物はただの敵じゃない。

その声が、精神を削ってくる。――こんな魔物、前にいたときは見たことなかった。

「にゃんにゃん♪」

ふと、優しい声が背後から響いた。

ミーナはゆっくりと近づき、アイスの隣に腰を下ろした。

「心配しなくていいにゃ。あいつらは、この都市の番犬みたいなもんにゃ。朝には消えるにゃん。」

猫様の温もりに触れ、張り詰めていた恐怖の糸が緩んでくる。

「……そう、なんだ。でも、なんか……変だよね」

「うん。確かに、前とは違うにゃ。高塔の“主”の力が、この都市の空気を支配し始めてる。だから、今のうちにみかどちゃんを助けに行かにゃいと」

その言葉に、アイスは小さく頷いた。

「ありがと、ミーナ。少し、落ち着いたかも」

「にゃふふ、いい夢を見るといいにゃ~」


ミーナがそう言って、アイスの頭をなでると、アイスは再びブランケットにくるまり、眠りについた。

□□□

ガラスが割れた窓から淡い光が差し込む。目を開けると、他の三人はすでに起きていた。

「おはよー、アイス!朝ごはん食べよっ!」

ドラミンゴが元気な声で呼びかける。テーブルの代わりに段ボールを囲んで、みんなで携帯食を分け合った。

「にゃふ。実は、夜の間に、うちの使い魔たちが“黒い高塔”を見つけたにゃ」

ミーナがそう言って微笑んだ。

それを聞いて、全員に活気が戻った。

食事の後、出発の準備を整える。

バイクに再びまたがり、霧がかった都市の道を40分ほど走る。

やがて――

それは、まるで唐突に、目の前に姿を現した。

霧がわずかに晴れたその先に、明らかに異様な雰囲気を放つ、巨大な黒い塔がはっきりと輪郭を帯びて浮かび上がる。

「これが、黒い高塔……」

塔の上層部は依然として濃い霧に包まれており、その全容は見えない。だが、塔の側面からは黒煙が立ちのぼり、霧と混ざって空を濁していた。

「……あそこに、みかどがいるのね」

アイスはその光景に、言葉を失って立ち尽くした。見たこともないほどの異質で荘厳な景色。あまりに異世界的なその建造物に、思わず見とれていた、まさにそのときだった。

音もなく霧の切れ間から、黒い影がひとつ――滲むように現れた。

それはまるで、闇そのものが人型をなして地上に染み出したようだった。

――グレイ。

黒いコートを翻し、彼は無言でアイスに跳びかかった。

「アイス危にゃいっ!!」

ミーナが叫ぶ。

「っく――!」

避けきれず、アイスの肩が切られた。鮮やかな赤が洋服を染める。

「ぐっ……へへ、大丈夫……ちょっとかすっただけ……」

そのとき、黒い影が静かに口を開いた。

「おはよう、アイスさん。……私はグレイと申します。今日は、貴方たちを終わらせに来ました。」

睨み合う彼女たちの間に、緊張が走る。

――戦いは、もう始まっている。

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