『完成された"嫉妬"』
その頃、アイスとヒナは確実にみかどを追いつめていた。
今や、二人の連携は完璧だ。アイスの攻撃がみかどを後方へと追いやり、その退路を塞ぐように、ヒナの触手が静かに待ち構える。
そしてヒナが囮となって意識を引き付けて、アイスが死角から回り込む――。
「まずいね…!」
みかどは防戦一方になり、とうとうテレフォースの構えをとる隙すら失っていた。
霧の中、少数残っていた部下たちも、すでに二人の猛攻によって次々に吹き飛ばされていく。
「あと数手……!」
ヒナが静かに低く囁いたそのとき――
みかどの足首に、ひやりとしたものが絡みついた。
ヒナの触手が、地を這って密かに回り込んでいたのだ。
「っ……!」
とっさに引き抜こうとするも、もう遅い。
ぐっと足を引かれたその瞬間、アイスが跳躍していた。
「ここで決めるよッ!!」
灼熱のハンマーが、空中で閃光をまといながら――みかどの脇腹へ一直線に振り下ろされる。――霜焼けの炎ッ……
「がはっ…!」
重く、鈍い音が響く。
みかどの身体は大きく吹き飛び、瓦礫の山を砕きながら、廃ビルの壁に激突した。
砂煙が舞い上がり、あたりは一瞬、静寂に包まれる。
「……やった、の……?」
アイスが静かに着地し、息を整える。
その衝撃で、みかどを覆う赤黒いオーラがわずかに弱まったように見えた。
――そのとき、みかどは人間としての感覚を、ほんの少しだけ取り戻すことができた。
(あれ、全身が痛い……なんでだろう。)
呼吸が浅くなっていく。
だが、心臓の奥に、どうしようもなく込み上げる何かがあった。
胸が、痛い。
「あいすが、ヒナと並んでる…なんで……?」
みかどは洗脳される前、好きだったんだ。ずっと。アイスのことが。
今、そのアイスはヒナとの完璧な連携で、自分を「敵」とみなし追いつめている。
もうその想いはアイスには届かない……
みかどの瞳が、ふるふると震えた。
「……!」
それは、ただの怒りではなく、悲しみでもない。強い強い、身を焦がすような嫉妬。
次の瞬間、みかどの身体が変貌した。
黒くえぐれていた顔の左上が再生し、両目が揃った顔になる。髪が伸び、表情も大人びた鋭い眼差しに変わっていく。
「……これは――!」
ヒナが息を呑む。
アイスも、その異様な雰囲気に、わずかに目を見開いた。
――《嫉妬IFモード》
『好きな人以外の攻撃は通じない』
それが、この形態の絶対的な特性だ。
つまり、今のみかどにダメージを与えられるのは、アイスただ一人。……そう、本来ならば。
ブワッ、と。
みかどを包む赤黒いオーラが、再び膨れ上がる。
「……っ!」
それは煙のような、“あのオーラ”――洗脳の象徴。
一瞬、かすかに戻った人間としての感覚が、再び赤黒い奔流に呑み込まれていく。
心が、記憶が、感情が……塗り潰されていく。
アイスが好きだったことも、
ヒナに嫉妬して胸が痛んだことさえも――全て。
――これはフォルトナの策略。
まず、洗脳を一時的に緩めることでアイスへの好意を蘇らせ、
そのうえでヒナへの嫉妬を誘発し、みかどを《嫉妬IFモード》へと導く。
そして、再度洗脳を強化し、アイスへの想いそのものを完全に消し去る。
結果――
今のみかどには、誰の攻撃も通じない。
まさに『無敵』の完成形。
そしてそれは、かつて好きだった相手――アイスを、
“自らの手”で壊させるための、最低最悪の罠だった。
「どうして…なんだ」
テレフォースの乱射。
爆発が次々と周囲を巻き込み、周囲の街並みは、たちまち焦土と化していく。
「ぐっ……!」
ヒナの触手が焼かれ、アイスも爆風で吹き飛ばされる。
みかどはノーダメージのまま、二人の体が一方的に削られていく。
「……!!」
沈黙のはずなのに、低く、淡々と響く。
テレフォース――命中率こそ高くないが、急所に当たれば致命傷になり得る圧倒的な破壊。
今、それが空中に縦横無尽に放たれている。
爆発、爆発、また爆発。
地が裂け、建物が吹き飛び、地平のすべてが灰と化していく。
身を守る術がない。
「ッ……!」
「なんで……なんで、あたしたちの攻撃、通らないの……!」
アイスが叫ぶ。
「……アイス」
「これ……ほんとに無理かも……」
普段、あれほど自信に満ちて残酷ですらあったヒナが。今、初めて――弱音を吐いて怯えていた。
これが――“嫉妬IF・洗脳融合体のみかど“。
最悪の完成形だ。




