『グレイvsドラミンゴ』
ドラミンゴの視線の先――尖った帽子を目深に被り、漆黒の気配を纏う長身の男、グレイ。
その存在が戦場の空気を一段階、重くしている。
「おやおや……使いからは、貴女の存在は聞いていませんでしたがね?……ククッ」
グレイがゆらりと振り返ると、静かに黒い剣を向けてきた。
それはまるで、凝縮した闇が刃の形をとったかのような禍々しい剣。
黒い魔力が滴るように揺れ、見ているだけで心臓の鼓動が乱れる。
言葉より早く、彼は剣を突き出してくる。
ドラミンゴは反射的に跳び退く――が、間に合わない。
「っ……!」
鋭い痛み。黒い剣が、彼女の脇腹をえぐった。
だが、彼女の表情はすぐに凶悪な笑みに変わる。
「わ~お!ユー素早いね~!でもね、ゴーちゃん攻撃受けると毒吐くんだよ~」
ビシュウッ!!
直後、彼女の口から勢いよく毒液が吐き出される。
粘性のある液体がグレイの顔を覆った。
「チッ……!」
顔をしかめて後退するグレイ。
その隙に、雑魚が数人、ドラミンゴへと殺到するが――
「邪魔よ!ユーたち!」
一閃!!
毒ガスの波が放たれ、吸った者たちを即座に昏倒させる。
ドラミンゴは崩れた兵士から剣を奪い、グレイに向き直った。
グレイも再び構える。
「剣は専門じゃないけど……ゴーちゃんにはね、わたし自身の戦い方があるのよ。」
剣戟が交錯する。
重く、鋭い斬撃が何度もぶつかり合い、地面に抉れた痕が刻まれていく。
グレイの剣筋は正確無比、無駄のない殺意そのものだ。
一撃ごとに黒い衝撃波が走り、地面がひび割れ建物のガラスが砕ける。
グレイの技量と魔力は、みかどとは段違いだ。
だが、ドラミンゴも歴戦の強者だ。
剣を弾かれながらも、体ごと捻じ込むように攻め、合間に毒の噴射を交えて相手の間合いを崩していく。
(ミーナの加護がある……それに、毒を食らった相手には、わたしの一撃は――二倍!)
不利ではない。むしろ互角以上。
グレイの動きに陰りが見え始めた。毒が徐々に効いている。
だが、グレイが一歩、静かに下がった。
「……この技は、お姫様に教えてもらったものだ。……ククク……」
口元が、愉悦に歪む。
「「ギイイイィィィィィ――――ッンン!!!!」」
グレイの口から『言語』が放たれた。
……ただし、我々が知る言語ではない。
……旋律ですらない。
まるで、脳髄に直接杭を打ち込むかのような、異音。
金属を爪で引っかいたような、赤子の悲鳴を裏返したような、
それらが無限に重なり、無秩序な音の塊となって空間を支配する。
それは、――『終焉』の悪魔の鳴き声。
ドラミンゴの全身が硬直し、そのまま地面に崩れ落ちる。
「なっ……く、うぅ……!」
動かない。身体が言うことを聞かない。
グレイがにやついたまま、ゆっくりと近づいてくる。
「さて……どんな悲鳴を聞かせてくれますか?」
彼の黒い剣が、まるで死刑執行人の斧のように、ゆっくりと振り上げられる。
「……わたしを誰だと思ってんのよ!!」
地面に伏したままのドラミンゴの口元が、ゆっくりと開いた。
「「――不具合の侵食!!」」
ズガァァァァァァァ―――ン!!
口から放たれた黒い光の奔流が、グレイの身体を貫いた。
その腹部を突き破り、凄まじい轟音とともに後方の廃ビルに巨大な穴を開けた。
「が……ぁ……!」
グレイはその場で倒れ、全身が硬直する。――エラー状態。
二人は同時に地に伏していた。
灰色の霧の中、崩れた瓦礫と崩壊したビルを背に、動けないまま、呼吸だけが響く。
ドラミンゴがかすかに笑う。
「ふふ……ゴーちゃんも、こういう技……使えるのよ……!」
――さあ、再び立ち上がるのはどっちが先か。




