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大阪出張

野坂陽子の過去を洗い出すために大阪へ出かけた林田刑事 野坂が店の経営に失敗したことを知る。

 福井駅新幹線ホームに林田と桐生が来たのは朝、7時ごろ、7時10分発の北陸新幹線つるぎ3号に乗り込むためだった。ホームの乗客はさほど多くなかった。福井駅の新幹線ホームは上りと下りが同じホームの左右にあるだけで、県庁所在地の新幹線ホームとしては異例の狭さで、かがやき号がつるぎ号を追い抜くスペースは作られていない。ゆっくりと入線したつるぎに小さな荷物を持って乗り込むと、車内は空席が目立ち経営が心配になった。しかし敦賀につくと車両から降りてきた人たちが一斉に「サンダーバード」に乗るために3階からエスカレーターで2階の乗り換え改札に一方通行で速足で青い戦に導かれて歩く。改札では10か所くらいある機械に長蛇の列になる。運悪く前にチケットを間違える人がいると前進が止まってしまう。しびれを切らした乗客は横の列に移って、危機を回避している。改札を抜けるとエスカレーターに乗るが次に乗るサンダーバードの号車によってエスカレーターを選ぶ。林田たちは6号車だったので4から6号車と書いてあるエスカレーターを選んで下に降りると1階にサンダーバードが待っていてくれた。今では珍しくなったJR在来線特急列車の車両は何かなつかしさを感じる。左右に2座席ずつで中央に通路があるが、新幹線の車両の幅に慣れてしまうと、在来線特急は狭い感じがする。

 時間通りに敦賀駅を発車すると北陸線と別れて湖西線の線路に入っていった。ここからは湖西線を日本一早い速度で走る在来線特急として疾走する。左手に琵琶湖、右手には比良山地を望む。北陸新幹線の敦賀から先のルートについては解決策が見いだせないままであるが、オバマルートに決まっていたはずが、なぜか米原ルートが再浮上してきた。しかし滋賀県JRの反対でこの湖西ルートも再浮上しているらしい。ただこの湖西線は冬になると比良山地からの風が強く、度々サンダーバードが運休になったり、米原経由に変わったりすることがある。新幹線が強い風に左右されることは避けたいとも考えた。京都駅をすぎると大阪はすぐ近くである。


 大阪駅近づくと大きな川を渡る橋が出てくる。水の都大阪は淀川の支流がいくつも流れ込んでいる。淀川の本流を渡ると周りに高層ビルが目立つようになり、大阪の再開発を実感する。減速して大阪駅に到着すると満員の乗客は我先にとそれぞれの行き先に速足で急ぐ。この歩く速さに田舎から出てきた人は仰天させられる。東京の駅の構内の人の流れも早いが、大阪はその上を行っている。

 人ごみに流されながら林田と桐生は天井からぶら下がっている看板を見落とさないように注視して、地下鉄御堂筋線方面に進んでいった。赤い線に沿って行くと御堂筋線乗り場はわかりやすかった。銀色の車体に赤いラインが入っているのが御堂筋線のシンボルなのだろう。日本語が読めない外国人でもわかりやすいように色で識別している。入線してきた車両から梅田駅でたくさんの乗客が降りてきた。全員降りる前から慌て者の大阪人は乗り込み始めて、ぶつかりそうだった。何とか乗り込むと空いたはずの座席は一気に埋まってしまい、林田たちは手すりにつかまり立っていることになった。目的の心斎橋駅迄わずか5分ほどである。

心斎橋駅を出て地上にあがると目の前に大きな橋が見える。心斎橋である。その向こうの中の島に大阪市役所がある。

 林田たちはまず戸籍の確認のため大阪市役所戸籍課を尋ねた。一般の市民はそれぞれの区役所へ行って行政サービスを受けるので、この市役所に来る人は少ない。しかし林田は事件捜査のための訪問という事で市役所本庁を選んだのだ。1階の戸籍関係の窓口で警察手帳を提示し、事前に福井警察署から照会をしていた旨を伝えると

「承知しております。こちらへどうぞ。」と隣の面接室に案内してくれた。個室になっていてプライバシーを気にするお客さんの場合などに利用するようだ。

「事前申請のあった件についてご用意しておりました書類がこちらです。」と言って書類袋を手渡された。中身を林田と桐生で確認すると野坂陽子の本籍地。両親、兄弟などが書かれた戸籍謄本が入っていた。その情報までは福井でも調べられたのだが、住民票も入っていた。福井に住んでいたが住民票は移動してなかったようだ。住民票では本籍地に住み続けている事になっていた。おそらく福井に越してくるまで大阪西淀川区大和田の本籍地に住み続けて、何らかの原因で福井に移動したが、住民票は移動させず、大阪市民のままだったのだ。という事は何らかの理由で移動先を誰にも知られたくなかったのかもしれない。林田は野坂陽子にまつわる過去にいろいろな憶測を巡らせてみた。もしかしたら野坂陽子は大阪から逃れるように福井へ逃げたから、誰にも行き先を知られたくなかったのかもしれない。彼女は大阪で何をしでかしたんだろう。


 大阪市役所での調査を終えた林田たちは市役所から歩いて大阪府警本部へ向かった。中央区大手の官庁街の大きなビルが大阪府警だが、野坂陽子の犯罪歴などを紹介してあった。大阪地方検察庁や大阪高等検察庁、大阪地方裁判所など司法関係の役所が立ち並ぶ場所だが、大阪府警本部は中でも大所帯で、威厳を保っていた。2人は正面から入って受付で福井警察署から来たことを述べると、受付の女性警察官が

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」と言って奥の部屋に案内してくれた。奥の部屋では応接セットが置いてあるきれいな部屋だった。座って待っていると

「お待たせしました。大阪府警警務部の隅田です。」と言って名刺を渡してぅれたのは警察の事務関係の仕事全般を扱う警務部の参事だった。

「単刀直入に申し上げます。野坂陽子は2021年頃から数回、売春行為で厳重注意をしております。その時の調書では大阪北新地のはずれに2020年、24歳の時にスナックを開店しております。しかしコロナパンデミックで店は開店休業状態。借金を抱えて北新地公園に立ちん坊として客を待ちながら売春をしていた過去があります。あの当時は北新地やミナミの店は多くが閉鎖に追い込まれ、この近くの北新地公園に朝から晩まで立って、客を待つ売春婦が多くいたのは社会問題化しました。ただ中には飲食店から流れてきたのではなく、ホストの店に入れ込んで借金を作り、仕方なく北新地公園で売春をする輩もいました。過去はいろいろですが多くの女たちが売春で生計を立てていた時代でした。コロナが開けても抜け出せない連中は今でもあの公園にたむろしてます。ただ数は減ったと思います。」と話してくれた。

 林田たちは福井で死んだ野坂陽子の過去を知り、複雑な思いをした。大阪で不幸な境遇に陥り、福井に逃げ出したが何らかの原因で殺されてしまった。可哀そうな人生である。そんな彼女を誰が殺したのか。福井の居酒屋で話し込んでいた女性はいったい誰なのか。謎は深まっていった。


野坂陽子の過去に秘められた秘密とは。 興味を持たれた方はブックマークをお願いします。

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