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足取り

健康保険の書類から野坂陽子の素性がわかった。野坂陽子は本籍が大阪市西淀川区大和田2丁目3-1 生年月日は1996年10月21日生まれの29歳 父は野坂達也 母は野坂道子 となっていた。ただそれ以上のことは大阪市役所から取り寄せた調査資料からはわからなかった。現住所は福井市毛矢3丁目2-5 コーポ毛矢201号という事もわかった。

林田刑事は捜査員の桐生に野坂の自宅付近の聞き込みに同行するように命じた。2人は足羽山のふもと付近の黒龍くろたつ神社の駐車場に黒塗りの捜査車両を停車させ、付近の住民に聞き込みを実施した。しかし夜の町で働く29歳の女のことなどほとんど知らなかった。朝方返ってきて、夕方出勤していくため、その姿はあまり見かけられていないし、挨拶を交わす人もほとんどいなかったようだった。ただアパートの管理人と隣の部屋に住む住人がかろうじてあいさつ程度交わしていることが分かった。

謎に包まれた野坂陽子の足取りをつかむため、『ジュン』のマスターがたまたま店で客とカラオケをしているところを携帯で撮影した写真があったものを提出してくれたので、その写真を持って再び繁華街を聞き込みした。今度は生きている時の写真なので堂々と出せたし、マスコミに提供してニュースでも報道してもらった。

すると2日後には情報が集まってきた。ただその情報の内、半分はガセネタだったが、信憑性の高い情報の中に数日前に、夕方駅前の居酒屋に野坂陽子らしい女性ともう一人別の女性が親密に話し合っていたというものがあった。林田刑事は桐生を同伴してその店に足を運んだ。

福井駅ビルの中の居酒屋「越前」という店で、通報者は店の店長だった。福井駅前は北陸新幹線延伸に伴い、多くの観光客が訪れるようになり、駅ビル内のテナントは平日でも活況を呈していた。林田刑事たちが「越前」を訪れたのは午後3時ごろだったので客足はやや少なくなっていた。林田が店長に警察であることを告げると

  「福井県警の林田です。写真の女性について連絡いただいた千原さんですか。」と言うとその店主は警察手帳を確かめて

  「はい、警察に電話したのは私です。写真の女性はもう一人別の女性とあそこのテーブルで親し気に話し込んでいました。きれいな女性2人だったので、よく覚えていたんです。写真の女性は野坂さんでしたっけ。事件に巻き込まれて殺されたらしいって聞いてびっくりしました。彼女たちがこの店に来たのは7月19日の夕方でした。その日は夏休みに入る前日で、学生さんたちが多く街に出たので若い人で賑わったからよく覚えています。野坂さんは水商売の方らしい派手な色のワンピースでしたが、もう一人の方は上品な白っぽいサマースーツで気品のあるかたでした。」と証言すると林田刑事は手帳に書き込みながら

  「その2人は何時ごろにこの店を出たんですか。」と足取りを聞いた。店主は

  「6時ごろ入店でしたが、8時ごろには出て行かれました。」さらに林田は

  「2人は何か話してましたか。」と聞くと店主は

  「そう言えばこそこそと話していたんですが『新幹線はいつごろ大阪まで』」という内容を話してました。ビールのお替りを運んだ時にそんなことを話してました。」と話してくれた。林田は野坂の本籍は大阪だったことから、2人の間には大阪という接点があるという事なのかとひらめいた。


   そこからは駅前周辺の監視カメラの確認と野坂陽子の写真を使って彼女たちの足取りを聞き込みで情報集めに集中した。すると駅前東口の通りを一人で歩く野坂陽子が、ガード下の人通りの少ない場所に入っていくのが見つかった。野坂と一緒に話し込んでいた謎の女は駅東口を出たところで野坂とは別れ、大きな駐車場に入っていくのが確認された。しかしそこからの足取りはまったくつかめなかった。ただしその日以来、野坂陽子は勤めていた片町のスナックは顔を出していない。しかも翌日には遺体となって鳴鹿堰堤で見つかっているのだ。

   林田は桐生に

  「野坂の戸籍は大阪府西淀川区。『越前』で話していた内容も大阪。問題は大阪にありそうだね。部長に大阪出張を頼んでみるけど、お前も一緒に行くか?」と問いかけた。


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