表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

『月光樹』 大和和紀

 大和和紀さんの代表作といえば、『はいからさんが通る』と『あさきゆめみし』の豪華二本立て。

『はいからさんが通る』は映画化もされた大人気作だし、『あさきゆめみし』は、源氏物語を全編コミカライズするという奇跡の大作です。


 でも、大和和紀さんの作品は大作ばかりではありません。今回ご紹介するのは、単行本1冊におさまる名作『月光樹げっこうじゅ』です。



 【あらすじ】


 

 スペインでフラメンコを学ぶ少女、茉莉まりは、日本人の父、尾崎画伯と、スペイン人の母(すでに故人)の間に生まれた娘だ。

 そんな彼女に日本行きを決意させたのは、ふたつの大きな事情だった。


 ひとつは父が事故死したこと。もうひとつは、撮影旅行に来ていた日本人カメラマン、れきと知り合い、おたがい惹かれ合っていたこと。

 父の国を見てみたい。帰国した歴にもぜひ再会したい。

 茉莉ははじめて日本を訪れ、父の葬儀に参列する。


 ところが。実は尾崎画伯には日本に正式な妻子があり(本妻はこれも故人)、茉莉はいわゆる隠し子だった。そして茉莉自身はそれを承知していたが、日本の姉妹ふたりにとっては初耳だった。

 姉妹たちは茉莉の存在に驚き、ここから波乱が始まる。


 美人女優である長女、薔子そうこはやさしく茉莉を受け入れ、一緒に住むことを決める。

 だが、彼女は歴のモデルを何度もつとめ、昔から彼に恋をしていた。そのため、茉莉と歴の関係を知って以来、冷静ではいられなくなる。


 次女、真木まきは最初は茉莉を拒絶。けれど憧れていた姉が茉莉に冷たくするのを見て、心が揺れる。

 三女に当たる茉莉は、歴と両想いの恋をしつつも、姉のために身を引く覚悟をする。彼女は姉を大切に思っていた。


 茉莉と薔子の恋の行方は。

 そして三人姉妹の選んだ道は──。

 それぞれの成長を感じさせるラストシーンが、深い余韻を残して美しい。


(1980年 別冊少女フレンド掲載)


 ────



 とても個人的な意見ですが、大和和紀さんの絵柄はけしてはなやかではないと思うのです。

 そう感じるのは、主に瞳の描き方のせいかと。

 瞳と肌がくっきり分かれていないというか、細かい線をふんわり重ねて区別している感じ。当然、お星さまもきらめきません。


 あと、描線そのものも細くて控えめな雰囲気ですよね。

『はいからさんが通る』(1975年開始)のころはそうでもないですが、その後どんどん繊細になります。


 なのに、なのにですよ。

 全体から醸し出されるはなやかさ、気迫さえ感じる美しさはなんなのでしょう。


『月光樹』の茉莉は、ショートカットで一見少年みたいな少女ですが、フラメンコを踊る姿はそりゃもう綺麗で色っぽい。

 薔子はセミロングで女性らしく、知的で聡明な美人。

 真木は肩にかかるふわふわ黒髪の、これも美少女。


 この三人の個性が、外見といい性格といい、すごく美しく際立っていて。

 三姉妹の織りなすドラマに引き込まれ、読んでいて全員を応援したい気持ちになりました。


 あ、紅一点ならぬ黒一点(?)の歴は、ちょっと外国人みたいなウェーブ髪のイケメン青年です。

 彼と茉莉の恋の描写が、また大人っぽくてかっこいい。

 彼が恋について語る言葉が印象的で、それが物語を貫いています。


 でも恋愛模様もさることながら、私が一番惹かれるのは、三人姉妹の心の葛藤と成長です。

 これが、とってもいい。

 クライマックスでの茉莉と薔子さんのやりとり……。ああ素敵。ほれぼれする。ネタバレで書いてしまいたいー。短いシーンなんですけどね。


 前回の『帰らざる氷河』でも書きましたが、今回も再読して唸ったのは、構成の巧みさです。

 決められた長さの中で、どこにクライマックスを持ってきて、どんなシーンで締めるか。

 美内すずえさんにしろ大和和紀さんにしろ、長編が傑作なのは誰もが認めるところですよね。

 でもやはり、この構成力あっての長編なのだと思わずにはいられません。

 

『あさきゆめみし』の連載開始が1979年なので、こちらはその翌年の作品です。

 平安時代のたくさんの女性たちを描き分けながら、一方で現代の女性たちも生き生きと描写する……。

 大和和紀さんだからこそ成し得た偉業ですね。


 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大和和紀先生、菩提樹は知ってましたが月光樹は初耳でした! 「あさきゆめみし」から入ったくちですが、ヨコハマ物語やはいからさん、N.Y.小町などいろいろ読んだなぁと懐かしく思いました。瞳の表現、繊細です…
大和和紀さまは『はいからさん』がとにかく好きで、めっちゃ影響されてる自覚があります!(๑•̀ㅂ•́)و✧ ただ、正直あのギャグセンスにやられてたので、次に読みはじめた『あさきゆめみし』は、なんだか真…
大和先生のこの作品は初めてでした。ググってみたら、冒頭の試し読みができるんですね。思わず読んじゃいました。絵が懐かしい……! 私の推しで恐縮ですが「横浜物語」です。これ、NHKの朝ドラにぴっったりだよ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ